アジト
私たちは盗賊団が屯しているアジトへと到着した。
バルバッド国境の道の上に威圧感を醸し出しながら佇んでいる巨大な筒上の砦は元採掘場だったらしい。
その堅牢な作りに目をつけた盗賊団に占拠され、今や国軍も誰1人侵入すら出来ないそうだ。
「これかな、そのアジトって」
「ああ、これだろ、周りに見張りもうじゃうじゃいるし」
アヴィの能力“座標移動”によって数Km離れた所から一気に移動した私たち。
そんな呑気な会話をしている私たちの周りには、ここの盗賊団の下っ端であろう者達がうじゃうじゃ湧き出てきて私たちを囲う。
「なんだお前らは!」
「一体どこから…!」
「お前ら五月蝿いからさ、どっかいってて」
アヴィは耳を刺すような喧騒にあからさまに機嫌を悪くし、能力を使って一気に何処かへと移動させた。
「どこに移動させたの?」
「さぁ、知らね、まぁきっとここから数十Km辺りにはいるだろ、何も身につけてねぇけどな」
にやりと口の端を釣り上げながら、すっきりとした表情を見せるアヴィに、私は苦笑した。
と言うか能力をなるべく使わないために武器を買ったのに、意味が無いではないか、と思いつつもアヴィらしいと笑みをこぼした。
「じゃあ行くか」
アヴィが能力を発動させ、砦となっている筒上の岩壁の上へと移動した。
「ねぇ、アヴィ、あれ…」
そこからは砦の中がどうなっているのかよく伺えた。
砦の中央に何やら檻があり、赤い髪の女の子と小さな女の子がその檻から出てきた。
が、その女の子たちを凶暴そうな虎のような動物が狙っている。
「アヴィ」
私がアヴィに声を掛けるか否かの瞬間にアヴィが能力を発動させ、その女の子たちの近くに移動した。
「あなた達、何者!?」
「バルバッドへ行きたいので、ここを壊滅させようと思ってるものです」
「…いいわ、ファナリス共々、猛毒をもつ肉食動物にやられてしまいなさい、気をつけてねぇ?爪や牙に掠っただけで人間なら一瞬で死んでしまうから」
きっとアジトの頭なのだろう。
にやりと鞭を振るいながら私たちを見て嘲笑うかのように見下す。
「お、おねえちゃ…」
「全然、大丈夫よ」
小さな女の子にそう笑いかける赤い髪の女の子。
その子は足をトントンと着いてから、一瞬で動物に詰め寄り、蹴りを入れた。
「あの女の子、凄いね」
「ああ、こっちにも来るぞ」
感心して赤い髪の女の子を見ていると、他の動物がこちらへ寄ってきた。
赤い髪の女の子はあちらの動物に手一杯な様子で、こちらを心配そうに見ていた。
私の後ろにいる小さな女の子も震えている。
「アヴィ、ちょっとだけ能力使うね」
そう言って私は腰に下げていた刀をゆっくりと引き抜く。
そして能力の1つである“空力使い”を少しだけ使い、刀に纏わせる。
そして襲いかかってくる動物に向かって切りかかったが、よけられてしまう。
当然動物は無傷のはず、だが。
「ど、どうして…」
動物は体中から血を吹き出し、地面に横たわった。
どうして、と思うだろう。
避けたはずなのに、と。
私の能力の1つである“空力使い”で空気の噴出点を無数に刀に作り、切りかかった際に鋭く空気を発射させ、鎌鼬を無数に作ったのだ。
これで広範囲の攻撃が可能となり、刀自身に当たらなくても鎌鼬に当たってしまい、動物は命を落としたのだ。
その調子で動物を5匹倒し、私は刀を収めた。
どうやら赤い髪の女の子も倒し終えたらしく、頭へと向かっていく。
「…お手上げだわ、奴隷商として奴隷を飼いそこねた私のミスね、殺されても仕方ない」
そう口にしてから、再び嘲笑うかのように笑みを浮かべる。
「殺していいのよ、あなたにしてみりゃそれだけ憎いことを私はやってると思うわ、奴隷狩りされた異民族や、あぶれた貧困層のガキを売りさばいてたくさん作り上げたわ、あなたみたいなみじめな奴隷をねぇ、儲かるのよ、これが…」
私には、殺して欲しくてわざと、今の会話からして元奴隷だと推測できる赤い髪の女の子を憤怒させるような言葉を選んで話しているようにしか聞こえない。
赤い髪の女の子は頭の話を聞き、足元の地面を足で抉ると、牢屋の鍵を要求した。
どうやら、ここには他にも捕まっている人たちがいるようだ。
赤い髪の女の子と小さな女の子がその牢屋へと足を進める中、私とアヴィは騒ぎを聞きつけてわらわらと湧き出す盗賊団を相手にしていた。
それをみた赤い髪の女の子がこちらを向き、加勢しようと足を動かした。
「いい、牢屋の人たちを助けてあげて!」
「!…わかりました、すぐ戻ります」
そう告げ、小さな女の子の手をとって牢屋へと掛けていく。
さて、私たちももうひと暴れしますか。
*2015/11/23