ルフ
バルバッドへ向かう道中、私たちを乗せた隊商は何度も盗賊団に襲われた。
その際に何となく見よう見まねで刀を扱えるようになった。
アヴィは元々相性が良かったのか、見る見るうちに剣技を独学で学び、上達していった。
流石アヴィ、そう言わざるおえない。
そんな今日も商売を終えた都市を後にし、馬車に揺られている。
チーシャンを出て、早数ヶ月が経っていた。
「ねぇ、アヴィ」
「ん?」
「この世界に来た時から思ってたんだけど、この光る鳥がルフなんだよね?」
「ああ、これか?」
アヴィは私たちの周りを羽ばたいている、可視出来る光の鳥を指さした。
この世界に来た時には何か動物なのかと思っていたのだが、この白い鳥は見える人と見えない人がいるらしい。
隊商にいる人に聞くと、これはルフと言うらしい。
良くは分からないが、ルフは魂の故郷、生きとしいけるものは個、けれども死んでしまえば皆1つの場所へ還る、それがルフだと言うことだ。
命の原始にして終焉、人は死ぬと体は土へ還る、そして魂はルフへと還るらしい。
ルフはあらゆる生命に宿り、運命へ導く。
そのルフを力に変える人達がいるらしいのだが、正直ちんぷんかんぷんだ。
きっと、その力に変える人たちが魔法使いやジンの金属器を持っている人なのだろう。
「そう、聞いた話では、ルフは色が変わるんだってさ」
「ふーん、白から何に変わるんだ?」
「黒」
「黒に変わんのか」
「そう、運命を恨み、負の魂のが黒く染めてしまうんだって」
「運命を恨む?」
「うん、良くは分からないけど」
アヴィは私の話を聞きながら、人差し指を中に浮かせた。
するとルフがひらひらと吸い寄せられるかのようにアヴィの指に留まる。
なんもと幻想的で、美しいのだが、これが黒く染まってしまうのか、と何だか不思議な気分になる。
「なんか蝶々みたい」
「全然別物だろ」
私の言葉にアヴィは太陽のような笑顔で笑う。
この世界に来て、何度も思ったことがある。
1人じゃなくてよかった、アヴィが居てくれて本当に良かった、と。
「ソラ、アヴィ、ちょっといいか?」
思いを馳せていると、隊商長が私たちに話しかけてきた。
因みにソラと言うのは私の名前を捩った偽名だ。
私の名前はアヴィとは違い和名なので、もしかしたら何か怪しまれるかも知れないし、この世界には合わないと思ったから、偽名をアヴィに付けてもらったのだ。
とても安直な偽名だが。
「どうかしたのか?」
「すまない、この隊商はバルバッドへは行かなくなってしまったんだ」
「え、何故?」
「バルバッドへの一本道に盗賊団が住み着いてしまったらしくてな、その盗賊団はとても凶暴らしく、屈強な奴らでさえ襲われたという噂でな、すまないが…」
「その盗賊団、どこにいるんですか?」
「え、?」
隊商長は私の顔を目を見開いて凝視する。
聞こえていなかったのだろうか、と思いもう一度同じ言葉を投げかけると、ようやく伝わったのか戸惑いながらも場所を教えてくれた。
「そいつらを倒せば通れるんだろ?」
「じゃあ、倒しに行ってきます」
「え、あ…ああ」
隊商は安全なところに居てください、と頼んだ後、私たちはその盗賊団のアジトへと向かった。
盗賊団如きに邪魔をされては困る。
この世界に来て、ただでさえ最早7ヶ月も経っているのだから。
早くしないとアリババという青年がバルバッドからいなくなってしまうかもしれない。
急がなくては。
*2015/11/23