異世界
アヴィの能力“座標移動”。
手を触れずともその物体を移動させることが可能、又空間移動系では最高値の能力であり、重量や距離の限界値は他の能力に比べるとかなり大きい。
「ひ、ひぃぃ!やめてくれ!」
なのでそこら辺にあった凡そ500kgの瓦礫を持ち上げて瞬時に移動させることなんてアヴィには造作もないことだ。
「お、お前ら魔法使いだったのか!」
「魔法使いじゃねぇよ、超能力者だっての」
そう言ってアヴィは最後の1人となった盗賊団の頭らしい人物に詰め寄った。
アヴィの能力に恐れを成した盗賊団の頭は腰を抜かし、奥歯をガチガチと情けなく鳴らしている。
「おい、ここは何処だ?」
「ちゅ、中央砂漠です!」
「中央砂漠?何処の国だろう…」
「も、もう少し行けばチーシャンがありますよ!」
「チーシャン?聞いたことねぇ国だな」
「ち、チーシャンは都市です」
もう少し行けばチーシャンという都市があるらしい。
そこに行けばもっと情報を集められるかも知れない。
「ありがとよ」
「あ、この洋服貰っていくね」
後ずさり、逃げていく盗賊団を尻目に私たちは恐らくあの盗賊団が奪ってきたであろう洋服や金貨などを貰った。
この服は目立つらしいから着替えた方が良いだろうと言うことで、瓦礫の陰に隠れて私は絹のような手触りのシンプルなワンピースに腰紐をつけ、アヴィもゆったりとしたズボンに上着を羽織る。
これで目立ちはしないだろう。
「取り敢えずチーシャンっていう都市に行ってみるか」
「うん」
脱いだ制服を鞄に入れ、先程の盗賊団の頭が指を指した方角へと歩みを進めた。
▽▽▽
「ここか?チーシャンってのは」
賑やかなオアシス都市、チーシャンに着いた私たちは周りを見渡しながら歩く。
周りの露店には、武器や見たことのない食料が売られていて、本当に日本国外なんだなと思い知らされた。
「あ、アヴィ、あれ…」
私たちはとある露店で、沢山の地図を見つけた。
アヴィも私が指さした方を見て、目を輝かせた。
「これでここが何処かわかるね」
「ああ、おっちゃん、世界地図を見せてくれねぇか?」
「らっしゃい!世界地図だね、ちょっと待ってな!」
店主の男性はにこやかに私たちを対応し、棚をゴソゴソと漁り始めた。
ようやく帰路につながる情報を手に入れれる、そう思い私たちの胸は期待で膨らんだ。
店主が持ってきてくれた世界地図を見るまでは。
「なにこれ…」
「なにって、これが世界地図だよ!ここがチーシャンだよ」
店主は指差しで色々な国や都市を教えてくれているが、全く耳に入ってこない。
私たちが知っている世界地図とは程遠い。
こんなに日差しが照りつけているのに、冷や汗が流れてきた。
「…おっちゃん、日本って国を知らないか?」
「にほん?なんだそりゃ、知らねぇな」
そんな、馬鹿な。
店主の言葉に頭の中の何かが崩れる音がした。
日本を知らないなんて、そしてこの世界地図。
この男性が嘘をついているとも思えない。
と、言うことはだ。
「…ここは、別の、異世界なのかも知れない」
ぽつりと零れた言葉に、アヴィは静かに目を閉じた。
*2015/11/22