見知らぬ土地
ゆっくりと深く沈んでいた意識がふっと浮上したのが分かった。
ぼんやりとした意識の中、私は目を覚ました。
そこには意識を失う前まで見ていた澄み切った空が広がっていた。
先程の雷は何だったのだろうか、そう思いながら何処か気だるい体をゆっくりと持ち上げ、私は言葉を失ってしまった。
「なに、ここ…」
私たちは学校の屋上に居たはずだ。
何の変哲もない、ただの学校の屋上に。
なのに、今はどうだろうか。
見渡す限り砂、砂、砂。
まるで南アフリカ大陸を思わせる砂漠が眼下に広がっているのだ。
まさか、と意識を失う前に見た青い雷と魔法陣のようなものを思い出す。
あれは“空間移動”だったのだろうか?
いや、それとも“座標移動”?
後者ならば、アヴィの能力なのでアヴィに文句を言えばいいのだが、いくらレベル5だからと言って学園都市がある日本の東京から南アフリカ大陸まで飛ぶことなんて出来るのだろうか。
取り敢えず、隣で気を失っているアヴィを起こすのが先か、とアヴィを揺さぶる。
すると直ぐに瞼がゆっくりと動き、焦点の合わない瞳が現れた。
「おはよう、アヴィ、説明して」
「おはようじゃねぇだろ、何処だよここ」
アヴィは頭を抱えながら起き上がり、眉を寄せる。
どうやらアヴィも状況が掴めていないらしく、怪訝そうな表情をして周りを見渡している。
と、言うことはだ、先程のはアヴィの能力ではないと言うことが分かる。
「取り敢えず、ここが何処か分からないと帰れないから、誰か人を探そう」
「おう、そうだな」
アヴィはそう言って近くに落ちていた私たちの鞄を持ち上げ、砂を払った。
私も立ち上がり、制服についた砂を払う。
そしてどちらからともなく、歩き始めた。
「私の予想では、南アフリカ大陸の何処かだと思うんだけど、どう思う?」
「見たところ砂漠か?日本のどっかにも砂漠あったよな」
「あれは砂丘でしょ?」
そんなやり取りをしつつ、取り敢えず歩みを進める。
それにしても暑い、まるで南国の様だ。
やはり日本ではないのだろうか、そんなことを思いつつ歩いていると、ターバンの様なものをアタマに巻き付け、民族衣装の様なものを身につけている男性が数人、下賎な笑みを浮かべてこちらを見ている。
「…やっぱり日本ではないんだね」
「そう見たいだな」
でも、人が見つかって良かったね、なんて呑気に話している私たちを見て、更に男性たちは笑いながら何やら物騒な物を取り出した。
「お前ら運が悪いな、俺達盗賊団、赤い牙に会うなんてなぁ!」
「盗賊なんて、今のご時世にあるんだね」
「ああ、俺も知らなかった」
「その余裕もそこまでだ!どうやら魔法使いじゃねぇ見てぇだし、変な服を着てるが、お前ら顔は整ってるからな、良い値が付きそうだぜ!」
「…ちょっと待って、アヴィ」
「ん?」
「なんでこの人たち、日本語話してるの?」
アヴィは私の言葉を聞いて、あ、と小さく言葉を漏らした。
この目の前の男性たちは流暢な日本語をペラペラと話している。
南アフリカ大陸だと仮定しても、こんなところの人達が日本語なんて流暢に話せるものなのだろうか、わざわざ日本語を使って話しかけるだろうか。
ちょっと、この人達に話を聞かなければならない。
「取り敢えず、このままだと話も聞けないから、アヴィ、宜しく」
「任せろ」
剣やら槍やらを持って私たちに向かってくる盗賊団を尻目に、アヴィはにやりと口を緩めた。
*2015/11/22