さようなら
夢を見ていた。
否、今もまだ夢を見ている。
ある時は何処までも濃い緑が広がっている広大な大地。
ある時は何処までも透き通った瑠璃色に輝く海原。
ある時は何処までも続く壮大な砂漠。
ある時は何処までも冷たく張り付いた氷が地面を包み、白銀の草原が広がる雪原。
次々と目の前でチャンネルが勝手に変わるテレビの画面を見ているかのように、立っている場所が変わりゆく。
体の力が抜け、ふわふわと夢が織りなす世界に漂い続ける。
私はどうしてここに居るのか、何故ここに居るのか、考えてもすぐに頭から抜けていく。
「…あ、れ?」
ふと、体がふわふわと浮いている感覚がなくなり、冷たい床の感覚が直に足の裏に伝わる。
周りを見ると、何処か石造りのような、そんな建物の中にいることが伺える。
「どこ、ここ…」
やけに自分の声がよく響くような気がする。
建物内には、本や金属物が散らばっており、どこか生活感のようなものが見える気もする。
「あれ、お客さんかな?」
何処からともなく声が聞こえ、その声が聞こえた方向へと顔を上げる。
そこにはよくわからない白いふにゃふにゃと自由に変形する物体と、顔だけの人がにこりと微笑みながらこちらを見ていた。
「貴方は…?」
「俺はウーゴだ、宜しく」
「はぁ…」
曖昧に返事を返すと、目の前の、ウーゴと名乗った顔だけの人は再びにこりと笑った。
その間も、白いふにゃふにゃと動く生物は部屋の中を移動したりしている姿が視界に入る。
なんだか異世界に来た気分だ、否最早異世界にはいるのだけれども。
「ここは、天国ですか?」
「天国?それが何処かはわからないけど、ここは聖宮さ、…ところで君は、誰なのかな?」
「あ、ソラです」
「本当に、君はソラなのかな?」
その優しくも、どこか冷たい声に、私は思わず吐き出した息を呑み込んだ。
どうして、そんなことを聞くのだろうか。
まるで私が偽名を名乗っていることを知っているみたいではないか。
「まぁ、それは今は置いておこう、ソラと言ったね、君のルフはとても不思議だね、綺麗だけれども、鎖に絡め取られている」
「鎖…?」
聖宮だの、鎖だの、訳のわからない単語ばかりが頭を駆け巡る。
結局、私は生きているのか死んでいるのかも分からない。
「リミッターとでも言えばいいのかな、君にはまだ、未知なる力が秘められているんだね」
「はぁ…、何の話をしているかさっぱり分からないんですけど」
「まぁ、そうだろうね」
ウーゴは苦笑いを零し、ふとこの部屋の高い天井を見上げた。
「さっきね、ここから愛しい主の移し身、否友達が旅立って行ったんだ」
「はぁ…」
「俺はもう、その子には2度と会うことは出来ない、だから…」
私の体がふわりと浮かぶ。
また、あの夢に戻るのだろうか、それとも今度こそ本当に天国に行くのだろうか、私にはもう分からない。
ただただ、目の前のウーゴの声を聞いていた。
「だから、君に、俺の代わりに彼の隣にいて欲しいんだ、アラジンの隣に」
「アラジ、ン…」
見知った名前に、驚きを隠せずに表情に出す。
そんな私の顔を見たウーゴは、優しく、けれども何処か儚げに微笑んだ。
次々とウーゴに対しての質問が浮かんでくる、がどんどんと私は天井付近にポツリとその存在感を表している扉に吸い込まれていく。
「待って!貴方は…!」
「頼んだよ、ソラ…、否、弥空!」
ギィ…と音を立てて開いた扉に吸い込まれ、私の意識はそこで途切れた。
*2015/12/30