煌帝国


咄嗟に周りにいた奴らを一緒に移動させ、避難をした。
さっきまで俺達がいた場所を見ると、地面は抉れ、原型を留めていなかった。
おいおい、ジンってのは一体どれだけの力を持ってるんだよ。
なんてジンの事を冷静に詮索しているが、指先が震えるほど、動揺している。


「アヴィさん、大丈夫ですか?」

「モルジアナ…、ああ、大丈夫だ」

そんな俺に、アラジンやアリババ、その他に5人の男性を抱えたモルジアナが怪我はないかと問いかける。
俺は平静を装いながら、背負っていた男性らを降ろしていくモルジアナに返答をした。


「他の霧の団の皆は?!」

「大丈夫です、シンドバッドさんのお陰で犠牲者はいないようですろ咄嗟の呼び掛けで皆早く逃げることが出来たから、でも…」

モルジアナは抉れて原型を留めていない地面を見下ろす。
その表情はどこか悲痛に歪められていた。
分かっている、何故そんな顔をするのか。


「ソラ、おねえさん…」

抉れた地面に立っているのは氷の槍が貫通しているジンだけ。
あの、黒いジュダルという奴も、そのジュダルを守っていた弥空も、何処にもいない。


「おい、アラジン、あいつは、ジンはどうなっちまったんだよ」

少しの殺気と恨みを声に込めて、アラジンへと放つ。
アラジンは顔をぐにゃりと歪め、わからない、とそう呟いた。
分からない、だけで済ませられる問題ではないが、アラジンを責めたところで何の意味もない。


「後でソラに怒られるぞ、覚悟しておけ」

「何を、言っているんですか…、ソラさんは、もう…」

「死んでねぇよ、俺が飛ばしたから」

「え…」

そう、俺は自分を移動させる前に、ソラと序にジュダルを上空へと移動させたのだ。
無論、ソラ自身に能力は効かないから、ソラがいた周辺の空間ごと、だ。
だからあのジンの攻撃には当たってはいないと思う。
咄嗟に使ったから、正確に能力を使えている自信はねぇから、無傷とは言えないかも知れないが。
そんな時、黒い影が俺達を覆った。


「あらあらぁ…、なんなのぉ?あの化物は…、随分と私たちの可愛いジュダルちゃんを虐めてくれたみたいじゃなぁい?」

バサリと風に靡きながら浮かぶ絨毯には見知らぬ奴らと、瀕死のジュダル、そして気を失っている弥空の姿があった。
見知らぬ奴らに助けられていたことは複雑だが、見たところ軽傷らしく、大怪我はしていないらしい。
良かった、と軽く息を吐いた。


「間一髪、この女性のお陰で助けることが出来ましたね」

「えぇ、でもジュダルちゃん、大怪我してるわぁ、夏黄文、ジュダルちゃんとその子をちゃんと治しなさいよぉ?」

「わかっておりますよ姫君、我々の大切な神官殿と、その命の恩人なのですからね」

絨毯の上で会話を交える赤髪の姫君と呼ばれている少女と男性。
どちらも、俺らの世界でいうアジア系の顔立ちをしており、どこか親近感を覚える。
赤髪の少女なんて、俺と髪色までそっくりだ。


「なんだ?あいつら…」

「シン、あの人達は…」

「ああ、あいつらは、煌帝国の人間だ!」

煌と大きく絨毯に書かれた文字が嫌でも目に入る。
煌帝国、か。



*2015/12/30


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