日常に似ている
「ん…」
ふと、辺りが明るいことに気づき、一気に意識が浮上した。
ゆっくりと起き上がり、当たりを見渡すと、ここが昨日シンさんが借りてくださったホテルの一室だと言う事を思い出した。
そうか、私寝ちゃったんだ…。
「あれ、起きたのか?」
「うん、アヴィ、おはよう」
「もう昼近いけどな」
アヴィはもう起きていたらしく、ガチャリと部屋の扉を開けて入ってきた。
そのまま私のベッドに腰を降ろし、ひんやりと冷たい手を私の額に当てた。
「熱はないみてぇだな」
「どうして?」
「いや、いつもよりぼんやりとしてるから」
「疲れてたからだと思う…」
そっか、と納得したアヴィは手の除け、コップに水を注ぎ、それを私にくれた。
お礼を言って受け取り、カラカラに乾いていた喉をゆっくりと潤した。
「ソラが寝てる間に…」
「アヴィ、今は私たちしかいないよ」
「…弥空が寝てる間に、情報を集めてきた」
「アリババっていう人について?」
「ああ」
どうやらアヴィは朝早くから起きて、街に繰り出して来たらしい。
申し訳ないと思う反面、アリババという人についての情報について、期待に胸を踊らせる。
「どうやらよ、今この国でアリババって奴は有名人らしい」
「それは、いい意味で?」
「いや、犯罪者としてだ」
アヴィが聞いてきた情報を纏めるとこうだ。
今国内では霧の団という国にたてつくテロリスト集団がいるらしい。
元は40人だったのが、2年ほど前に城の宝物庫を破り、軍資金を得て力をつけ、今や規模数百人という大所帯に肥大化。
スラムの人たちにとっては、奪い取った金品や食料を分け与えてくれるので義賊扱いになっているそうだ。
しかも不思議な魔術を使い、国軍ですら手に負えないらしい。
その霧の団のリーダーとも言える頭の名前が。
「怪傑アリババ、か…」
「この国ではアリババなんて名前は珍しくない見てぇだけど、その不思議な魔術ってのが気になる」
「もし、その不思議な魔術がジンの金属器であれば、その怪傑アリババが私たちの探しているアリババってこと?」
「そうなるな」
ならば、その霧の団に会いに行かなくてはならない。
今のところ、私たちが知っているアリババはその怪傑アリババ1人。
不思議な魔術、それが私たちが望んでいる能力であればいいのだけれども。
そう思いながら、再びベッドに寝転んだ。
そんな私を見て、アヴィが優しく微笑む。
「なんだか、久しぶり…」
「何が?」
「アヴィのその笑顔見たの」
そう口にすると、アヴィはきょとんとした表情を見せてから、視線を窓の外に広がっている空へと向けた。
「そうだな、久しぶりかもな」
どこか、いつもの日常に似たこの雰囲気が懐かしく、そして心地よかった。
それにしても、アリババにアラジン、か。
「アラビアンナイト見たいだよね」
「唐突だな、名前の話か?」
唐突、という割にはきちんと私の考えていることを分かっているのは流石だなと思う。
「うん、アラジンにアリババ、盗賊とかさ」
「まぁ、そう言われればそうかもな」
そんな話をしていると、部屋の扉がコンコンとリズムよくノックされた。
きっとアラジンとモルジアナだろう。
もう少しで約束していた食事の時間だ。
私はノックに対しての返答をしてから、身支度を整えるために起き上がった。
*2015/11/25