ホテル


バルバッドへと足を踏み入れた私たちは、キョロキョロと辺りを見渡す。
私たちの世界でいう、白人も黒人も、黄色人種も、様々な人たちが行き交う。
なんだか不思議な気分になると共に、少し怖くなり、隣にいたアヴィの服の袖を摘んだ。
ここは、やはり自分がいるべき世界ではない、そう言われている気がしたのだ。


「大丈夫か?」

「うん…」

そんな私の様子に気づいたのか、アヴィは出来るだけ私に歩幅を合わせて歩いてくれた。


「ここは代々、サルージャ一族という王族が治めて盛り立ててきた国なのだよ、しかし先代が亡くなられてからは…国が乱れているようだね」

シンさんの言葉に、視線を川沿いの橋がある石垣に向けた。
そこには赤いペンキで王政打破、と生々しく大きく書かれており、治安が良くないことを指し示していた。


「でも、ここなら安全だよ、俺がいつも泊まっている国1番の高級ホテル!」

そう言ってシンさんが案内してくれているのは、大きくてとても立派なホテル。
壁には細かい装飾が施されており、国1番と言うのは本当なのだろうと伺える。
だが、こんな高級ホテルに私たちは泊まれない。
隊商で稼いだお金もあるが、きっとホテル代には到底及ばないだろう。
モルジアナとアラジンもそうなのか、眉を下げて宿代の心配をしている。


「なに、心配いらないよ、宿代は俺がだそう、助けてもらった礼だ!お金は先にここに来ている俺の部下が払うから好きなだけここに泊まっていくといいよ!」

シンさんの言葉に、アラジンやモルジアナは喜んでホテル内に入っていった。
そんなアラジンたちを見て微笑んでから、シンさんもホテルに入ろうと歩みを勧めた。
止めようとする前に、警備の人にシンさんは止められてしまった。


「なんだ貴様!怪しいヤツめ!」

「え、俺のどこが怪しいっていうんだ!」

「あ、違うんです、この人は…」

警備の人に理由を聞いてもらおうとシンさんの前に出た瞬間、呆れを交えた声が聞こえた。


「シン様!今までどこへ行ってらっしゃったのですか?」

緑のクーフィーヤを身につけた民族衣装にもにた官服に袖を通している頬にそばかすがある男性と、金属製の鎧を身につけ、鍛えられた筋肉を惜しみなく出している男性の2人が近寄ってきた。
きっと、この人たちがシンさんの部下なのだろう。
丁度いいと思い、シンさんの部下の人たちに何があったのか、細かく説明した。


「…そうなのですか、私共の主人がご迷惑をおかけしました、主人の命通り、あなたがたの宿代はどうぞ私共にお任せ下さいね」

「ありがとう!部下のおにいさんたち!」

「いえ、さぁ、あなたはそのはしたない格好を何とかしてください」

「じゃあな!アラジンにモルジアナ、ソラ、アヴィ!明日飯でも一緒に食おう!」

そう言って部下の人たちに連れていかれるシンさん。
私たちはそんなシンさんを尻目に、部屋に案内してもらった。
部屋は2つ、モルジアナとアラジンの部屋と私とアヴィの部屋。
モルジアナとアラジンに、また明日と別れを告げ、私たちは部屋に入った。


「うわぁ、凄い部屋」

流石国1番のホテル。
部屋の広さもありながら、天井や壁、床と細かいところまで手入れや装飾が施されており、なかなか足を踏み入れることが出来ない。
そんな私にお構いなく、アヴィはつかつかと部屋の中に入り、ベッドに座り込んだ。
私もゆっくりと足を踏み入れ、アヴィとは違うベッドへと腰掛けた。


「疲れたね」

「ああ、そうだな」

アヴィは大きな欠伸を1つ、零してからベッドに倒れ込んだ。
私は、そんなアヴィを見つつ、この街にいるであろうアリババに思いを馳せた。
どんな人なのだろうか、と。
そんなことを考えているうちに、旅の疲れが出たのか、ゆったりと睡魔が思考を襲う。
うつらうつらと船を漕いでいると、アヴィがベッドから起き上がった。


「おやすみ」

優しく微笑み、私をベッドに寝かせて布団を掛けてくれたアヴィにお礼をいい、私の思考は睡魔に飲まれた。



*2015/11/25


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