バルバッド


小道に入り、そこらに転がっていた丸太に腰を下ろし、火をたいた。
男性の名前はシンと言うらしく、バルバッドへ向かう商人だと言う。


「そっか…、さっきは話も聞かずにごめんよ、おじさん」

アラジンはしゅんと反省しながら頭をかく。
そんなアラジンの隣に座っているシンを、モルジアナは不思議そうな表情をしながら見つめている。


「ほう、君はその年で砂漠を越えたのかい?」

「そうだよ!黄牙の村にある北天山高原から中央砂漠を越えてきたのさ!珍しい植物や生き物がたくさんいたよ!」

中央砂漠、と言う聞いたことのある地名を聞いて驚いた。
アラジンもあの中央砂漠を通ってきたのか、この年で。
この世界は子どもの時から何かしら戦闘教育でも受けているのだろうか。


「そうか!いいねぇ、俺はそういう冒険譚が大好きだよ」

そう言ってシンは近くにあった沢山積み上げられている小枝を1つ手に取り、火にくべた。
直ぐに小枝は燃えてなくなり、火を大きくした。


「未知なる土地や知識に出会うあの高揚感は、何ものにも変えがたいね」

シンの話に聞き入っているアラジン。
アヴィも少し気になるのか、視線だけはシンに向けている。
モルジアナはそんな2人をぽかんとした表情で見つめていて、私はというと未だにシンさんに視線を向けられず、ずっとくべられた炎を見つめていた。


「…あの、バルバッドへ急ぎませんか?」

「おっと、すまないねお嬢さん!」

私たち一行は立ち上がり、火を消した。
やっと視線を地面から上げられる、そう思い視線を上げると、バチッとシンさんと目が合ってしまった。
思わず先ほどの光景を思い出し、頬に赤みが刺す。


「先ほどはすまなかったね、お嬢さん」

「いえ…」

「名前を聞いてもいいかい?」

「あ、私は…」

「ソラだ、俺はアヴィ、よろしくな」

私とシンさんの間にアヴィが割り込み、珍しくにっこりと笑顔を浮かべている。
そんなアヴィに、シンさんもにこりと笑顔で握手を求めた。


「君たちのような可愛らしいお嬢さんとの出会いも旅の楽しみの1つだね」

「はぁ…」

シンさんがモルジアナと私を見てそう言った。
モルジアナは大して分かっておらず、曖昧な返答を返すのみだった。
私はと言うと、シンさんはきっと相当女の人の扱いに慣れているのだな、と実感した。


「ねぇ、バルバッドはまだかな?」

「その丘を下れば街が見えるよ」

「え、見えないよ?」

「塩の香りがします」

モルジアナがくんくんと鼻を動かすのを見て、私も鼻から息を吸い込んでみた。
だがまだ塩の香りは感じられなかった。
もしかしたらモルジアナは身体能力がとても優れているのかもしれない。
アラジンは丘まで駆け上がるのを見て、私たちも足を進める。

バルバッド王国。
国面積は大陸一小さく、国というよりは都市と呼ぶべきほどだ。
しかし、それはあくまでもこの大陸においてのみの話である。
バルバッドは首都こそ大陸におくが、その実体は大小数百もの島々を支配する、大海洋国家なのだ。
バルバッドは北のオアシス都市軍、北東の小国郡、西のパルテビアの中心地とあって古来より交易によって栄えてきた。
様々な人種、文化が混ざり合い、周辺国とは違った雰囲気を持つ国。


「これが、バルバッド…」

眼下に広がる国を見て、私は小さく呟いた。



*2015/11/25


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