私がこの、氷帝学園に転校生としてやってきてから2日が経過した。
クラスメイトは皆積極的に私に話しかけてくれたので、とても助かった。
お陰で良好な関係を築けそうだ。
心配していた授業のレベルやスピードも立海と差ほど変わりなく、授業に追いつけない、なんていうことは無さそうだ。


「この学校、すごく広いんだね!」

「まぁ、俗に言う金持ち学校だからね」

今、私の机と合わせて一緒にお昼ご飯を食べているのは西園寺 来葉(さいおんじ くるは)ちゃん。
あだ名はくるちゃん、因みに命名は私。
私が1番最初に話しかけた、前の席の女の子だ。
どうやら私とくるちゃんは相性が良いらしく、少し話すだけですぐに仲良くなった。
長い艶やかなたっぷりとした髪を靡かせ、黒曜石にも似た瞳でこちらを見るくるちゃん。
とても美人さんなくるちゃんだが、クラスメイトから聞けばあまり笑わないと評判のクールビューティさんだったらしい。
だが、私はよくくるちゃんの柔らかな笑顔を見るので、クラスメイトの話と矛盾が生じる。


「那奈の前の学校はどんな感じだったの?」

「私の前の学校?普通の学校だったけど、すっごく人気がある部活があったよ」

「へぇ、…それってまさか男子テニス部じゃ」

「え、くるちゃんどうしてわかったの?」

私があからさまに驚いた表情をすると、くるちゃんは心底呆れたように、ため息混じりで口を開いた。


「この学校の男子テニス部の人気が半端じゃないのよ、特にレギュラーや準レギュラーの人気がね、だからもしかして、と思ったんだけど…」

「…なんで男子テニス部がこんなに人気あるんだろう」

「顔が良いからでしょうね」

顔、か。
どうして外見だけで人を見てしまうのだろうか。
勿論、これは皆ではないだろう、けれども実際に一部の女の子は外見だけで見てしまう人もいるのだ。
立海にいた、男子テニス部のレギュラーの皆も、とても顔立ちがよく、それに加えてテニスの腕も持ち合わせていた。
だから、アイドルのように持て囃されていた。
けれど、どんなに顔が良くても、テニスの腕前が良くても、同じ人間なのだ。


「レギュラーは皆の物なのよ!?」

「独占なんてしないで!」

私が男子テニス部のファンクラブ会員から言われた言葉だ。
皆の物、そう彼女達は言ったのだ。
彼らは人間であって、物ではない。
皆、自分の意志で考え、行動している人間なんだ。
それなのに勝手にそれぞれのイメージや想像で性格などを決め付けるなんて、許せなかった。


「誰にでも優しいってさ、俺はそんな人間じゃないのにね」

精市と同じクラスになった時、珍しく隣の席になった。
楽しく談笑している最中に、精市はぽつりと、哀しそうに笑いながら零したのだ。
どうやら、以前精市はとある女の子に告白をされていたらしい。
その子は、あの子には関わらない方がいいよ!など私の事を敵対視していたのか、悪口を言ったらしい。
精市はそんな女の子に、冷たく付き合えないと告白を断ったのだ。


「幸村君はそんな冷たくない!誰にでも優しい人よ!」

告白した女の子は、精市にそう言って去っていったらしい。
勝手に誰にでも優しいとイメージを付けられ、そのイメージ通りでなければ罵倒される。
そんなのは理不尽だ。


「…そのテニス部の人たち、可哀相だよね」

「え?」

「前の学校のテニス部、そのレギュラーはアイドル扱いされて、そした勝手にイメージを付けられてて…、そのイメージ通りじゃなければ、貴方はあの人じゃない、って罵倒されてた」

私は持っていた木製の箸を強く、握りしめた。
レギュラーの皆と、家族のように仲が良かった私は、皆の苦しみや悲しみ、悩みを聞いていたから、分かるのだ。
イメージ通りの自分でないと否定される悲しさ、ありのままの自分を受け入れてもらえない苦しみが。
それはとてつもなく、辛く悲しい。


「悲しいよね…」

「…私、那奈と友達になれて良かったわ」

「え?」

くるちゃんは視線を伏せていた私の頭を優しく、繊細な手つきで撫でてくれた。


「那奈が他の女子と同じ考え方じゃなくて良かったわ」

くるちゃんの手は暖かくて、なんだか優しが伝わってくるような、そんな気がした。



*2012/11/21
(修正)2015/12/23


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