今日はいつにも増してクラスがざわついている。
理由は分かりきっている、俺様のクラス、このA組に転校生が来るらしいと朝からその話題で持ちきりだ。
本来ならば転校生の存在など微塵にも気にしないのだが、今回だけは別だ。
俺様の席は窓側から2番目の列の1番後ろ。
転校生の席となるのが、窓側の列の1番後ろ。
つまり、俺様の隣の席、今は空席となっている机と椅子が転校生の席となるのだ。


「…ちっ」

なんで俺様の隣が見も知らぬ転校生なんだ。
C組みだったならば、ジローや宍戸と同じC組ならば、美鈴の近くに入れるのによ。
そんな部活仲間に浅ましい嫉妬心を抱きながら思わず溜息をこぼす。


「さぁ、席につけ」

丁度、タイミングが良いのか悪いのかは分からないが教室の扉がガラリと音を立てて開き、担任が何時ものように笑みを浮かべながら入室する。


「先生、転校生が来るって本当ですか?」

「よく知ってるな、その通りだ」

とある生徒の好奇心によって飛ばされた質問に、担任は苦笑を零しながらも返答する。
返答はYES、つまり転校生が来ることは本当らしい。
空席がある時点で分かってはいたが、いざ転校生が来るとなると、気をつけなければならねぇ事がある。
俺はざわめきが大きく木霊する教室内で、転校生がミーハー女じゃないことを願った。


「佐倉、入ってくれ」

期待を孕ませながら、クラスの殆どが教室の今まさに開かれるであろう扉を凝視する。
転校生がミーハー女だった場合、気をつけなければならねぇ。
また変な言いがかりをつけられて、美鈴が傷つけられるような事があっては困る。
ゆっくりと扉が横にスライドした。
瞬間、教室内は元の静けさを取り戻し、入ってくるであろう転校生の姿を今か今かと待ちわびる。
全てがゆっくり、時を刻み始めた。
まるでスローモーションになったかのように、転校生が入室するまでがコマ送りのように俺には見えた。
扉から除くスカートが、転校生の性別を表していた。
女だと分かり、俺はさらに目を鋭くさせながら転校生を観察する。
制服は校則通り、スカートの長さやリボンなどもきちんと忠実に守られていて、乱れ1つ無かった。
容姿は普通よりは整っているのだろう。
その顔は今は緊張で固まっているように見える。
まぁ、美鈴には劣る。
転校生は浴びせられる視線に眉を少し寄せた後、教卓の隣に立った。


「じゃあ、簡単に自己紹介をしてくれ」

「…佐倉那奈です、神奈川県から引っ越して来ました、宜しくお願いします」

転校生は綺麗に一礼し、緊張が解けたように息を吐いた。
随分とありきたりな自己紹介だったが、悪くはねぇ。


「佐倉の席は跡部の隣だな、跡部、手を上げろ」

俺が待っていたのはこの瞬間だ。
名指しをされたので大人しく、内心は溜息を零しつつ、転校生の表情を伺いながら左手をあげる。
すると転校生は必然的に俺様を見る。
これで顔色を変えたら要注意って所だな。
そう思っていたのだが、転校生はすぐに視線をそらし、自分の席になる空席を見つめた。
特に顔色に変化はなし、か。


「跡部は生徒会長も努めているから何か分からない事があれば聞いてくれ」

「…はい」

担任の言葉に返答をした後、転校生は早歩きで席についた。
俺は転校生を観察するべく、凝視していた。
だが転校生と視線が交わることも、会話をすることもなかった。
大抵の女は、隣の席という立場を利用して近づいてくるのだが、転校生は斜め上を行く予想外の行動をしたのだ。
転校生は前の席の女の肩を叩き、笑みを湛えて何かを話し始めた。
正直、驚いた。
転校生の前の席の女は無愛想で笑わない事で有名な筈だった。
だが転校生と話しているその表情は笑顔だった。
転校生、佐倉那奈か…。
俺様は単純に興味を持った。



*2012/11/17
(修正)2015/12/23





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