「うわぁ、大きな学校…」

気慣れない硬い制服を着て、今日から通う事になった新しい学校の校門を通る。
以前通っていた立海も他の学校に比べれば大きい方だったけど、新しい学校、氷帝はもっと大きい。
流石は都内有数のマンモス校。
何故、こんな曖昧な時期に転校してきたのか。
それには理由があった。
以前通っていた立海という学校は神奈川県にあり、その学校にはアイドル並み、いやそれ以上に注目を浴び、人気を集めていた部活動があった。
容姿端麗で全国大会連覇を果たしている立海大附属中等部男子テニス部。
私は偶然、その立海大附属中等部男子テニス部の部長である精市と縁があって親しくなり、そこからレギュラーの皆とも徐々に仲良くなり、時々マネジメントを頼まれるほど、良好な関係を築いていた。
甘い恋色の感情など、私達の中には無かったのだが、他人から見たらそういう感情が含まれているようにも見えたのかも知れない。
とにかく、レギュラーに恋心を抱いていた人にとって、私という存在が邪魔だったらしい。

ある日のことだ、精市にいつものようにマネジメントを頼まれ、部室でドリンクを作っていた時、女の子が1人で部室に入ってきた。
声をかけようとした瞬間、その女の子は私が作っていたドリンクを奪い、自らに掛けようとボトルを振り上げたのだ。
運良く、部室に赤也が入ってきたことにより、その女の子はボトルを投げ捨てて逃げ出した。
私は、その女の子の目を見て、とてつもない恐怖に襲われた。
その女の子の目は嫉妬が渦巻いていて、濁っていたからだ。
もし、赤也が部室に入ってきていなかったら…私は完全にあの女の子によって嵌められ、陥れられていただろう。
だから私は逃げた、嫉妬や妬みで濁った目から、逃げたのだ。
仲良くしていたテニス部の人と離れるのは辛かったけど、仕方がないと割り切って、誰にも言わずに逃げてきたのだ、この氷帝に。


「…あ、職員室どこだろう」

いつの間にか止まっていた足を再び動かし、職員室を探すことにした。



▽▽▽



「あ、あった!」

やっと職員室を見つけ、安心して短く息を吐いた。
大きい学校のだとは思っていたけど、まさかこれ程広いとは。
迷子にならないように気をつけよう。
職員室の扉を軽くノックし、ゆっくりと扉を開く。
職員室内はどことなく高級感が溢れており、引かれている絨毯の上に足を運ぶことでさえ、変に緊張した。


「本日、転校してきた佐倉です」

「君が佐倉か」

近くにいたきっちりとスーツを着こなし、微かに香水の香りを漂わせている男性教師が私を一瞥し、何やら資料を見てから再び私を見た。


「あちらにA組の先生がいる」

「あ、ありがとうございます」

私はその男性教師に一礼し、私の担任の先生となる男性教師の元へと足を運んだ。


「君が佐倉だね、佐藤だ、宜しくな」

「宜しくお願いします」

私は担任の佐藤先生に一礼した。
そしてそろそろSHRが始まると言うことで、教室の方へと移動する事になった。



▽▽▽



教室の扉の前でそわそわと呼ばれるのを待つ。
今なら転校生の気持ちが分かる気がする。
あ、今は私が転校生だった。
緊張してしまい、思考も纏まらない状況だ。
自己紹介の時に噛んでしまったらどうしよう。


「佐倉、入れ」

そんな緊張の最中に名前を呼ばれてしまい、はいと返事も出来ないほどに固まってしまった。
仕方なく、返事をしないまま教室の扉に手をかけ、ガララと音を立てながら開いた。
教室内へと足を踏み入れた瞬間、じっくりと値踏みされているかのように刺さる視線を全身に感じ、さらに体を固くした。


「じゃあ、簡単に自己紹介をしてくれ」

「…佐倉那奈です、神奈川県から引っ越して来ました、宜しくお願いします」

なんとか噛まずに言い終え、礼をした。
すると温かい拍手を贈ってくれたので、私の緊張は紐解けたように少しづつ解けていった。


「佐倉の席は跡部の隣だな、跡部、手を上げてくれ」

窓側から2番目の列の1番後ろに、日本人離れした容姿を持った生徒が手を気だるげに上げた。
あの彼が跡部君らしい。
ということは、私の席は転校生の席とも言える窓側の1番後ろだ。


「跡部は生徒会長も努めているから、何か分からない事があれば聞いてくれ」

「…はい」

私は早足で席までの道を歩いた。
その途中、自分の席の前が女の子だと気付き、友達になろうと意気込み、席に座った。
そして前の席の女の子の肩を優しく叩いた。


「後ろの席になったから、仲良くしてね」

「貴女…ふふっ、面白いのね」

「え、何が?」

「私、絶対に跡部君に話しかけると思ってたわ」

怪訝そうに眉を寄せて後ろを向いた女の子は、私の言葉を聞いて驚きに目を見開いてから、鈴のような声でクスクスとと上品に笑った。
話しかけた時から思っていたけど、この女の子、とても美人さんだ。


「…普通、話しかけるなら同性の子じゃないのかな?」

話しかけやすいし、と続けると、女の子はまたクスクスと笑った。
私、変なことを言っているだろうか。


「貴女みたいな子、この学校では珍しいのよ」

「…そうなんだ」

同性の子ではなく、男の子に話しかけるってこと?
それって…、ううん、考え過ぎだ。
そう曖昧に返事をし、短くため息をついた。



*2012/11/14
(修正)2015/12/23




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