ここは私の世界。
私が愛される、私だけが愛される世界だ。
私のための世界を、誰にも壊させたりするものか。


「皆、おはよう!」

「美鈴!」

私のクラスである3年C組の教室に挨拶をしながら入る。
私の姿を確認したジローが椅子から勢い良く立ち上がり、満面の笑みを称えながら私を出迎えてくれた。
私はそんなジローを見て、満足げに笑顔を浮かべる。


「美鈴、来るの遅いC!ずっと待ってたんだよ!」

「ジロー、ごめんね…?」

顔の前でパチンと両手を合わせ、上目遣いをして申し訳なさそうな顔をすれば、ジローは頬を赤く染めながら私の腰に腕を回して抱きついた。


「ジロー、美鈴に何言ってんだよ…激ダサだぜ」

「う〜、宍戸うるさいC!」

「あ、亮おはよ!」

「あ、あぁ…はよ」

ジローにため息混じりに小言を言った亮ににこりと挨拶をすれば、亮の顔はまるで熟れた林檎のように赤くなっていく。
そんな私たちを見て、クラスメイトは凍てつくような冷たさの視線で睨んでくるが、私には関係ない。
男子テニス部は私のもの、私の所有物。
どう扱おうが、他の人には関係ない。



▽▽▽



「美鈴、部活行くぞ」

時は過ぎ放課後。
教室の扉をガラリと開け、景吾を先頭としたテニス部レギュラーが教室内に入ってきた。
わざわざ私を迎えに来てくれたらしい。
歓喜に体が震えるが、ぐっと堪えて、申し訳なさそうな顔を作る。


「もう…、迎えに来なくて良いって言ってるのに…」

「また美鈴の事をミーハーだとか言い寄って嫉妬する奴とかが居ったら危ないやろ?」

そう言いながら侑士がさり気なく私の鞄を手に取り、持ってくれた。
私はその気遣いに笑みをこぼしながら、再び眉を下げながら、先程とは違う、悲しげな笑みを浮かべた。


「私が我慢すれば良いだけだから、…大丈夫だよ?」

「大丈夫じゃないですよ!藤白先輩は何も悪く無いんですから!」

私の言葉をクラスに響くような大きな声で長太郎が否定し、長太郎の隣にいた若がクラスメイトを凍てつくような冷たさの視線で睨む。
全てが思い通りになりすぎて、思わず高笑いを零したくなるが我慢だ。


「そうだC!美鈴はちゃんと仕事してくれるC!」

「あ!くそくそ!ジロー狡ぃぞ!」

ジローがどさくさにまぎれて私の腰に腕を回すと、岳人がジローを引き剥がそうと反対側から私に抱きついてくる。
私は苦笑しながらも、その光景を優しげに見つめる。
ねぇ、見てる?
私がテニス部に愛されている姿を。
その目に焼き付けておいて?
そして歯軋りでも、なんでもしていなさい。
この世界で愛されるのは、私だと言う事を嫌でも分からせてやる。


「皆ありがと、皆が居るから、美鈴は大丈夫だよ」

この氷帝学園という世界の中で。
私は姫、という位置にいる。
カッコイイ騎士に守られ、愛される姫。
お姫様は私だけで充分なの。



▽▽▽



「…ドリンク、出来ました」

「ご苦労様ぁ」

部室の中。
私は携帯を弄りながら椅子に座り寛いでいた。
そんな私に、1年のマネージャーがドリンクを全て完成させ、声を掛けてきた。
マネージャーの顔を一切見ずに、声をかければ、マネージャーはぎりりと歯を鳴らす。
その音に気付き、私は携帯からマネージャーの顔へと視線を移した。


「…先輩、部長たちに本当の事を言って頂けませんか?」

「え?何をぉ?」

「マネージャーの仕事の事です!全部私がしてるじゃないですか!それなのに…」

「私に手を汚せっていうのぉ、…そう、またお仕置きされたいのねぇ…?」

椅子からガタンと音を鳴らし、勢い良く立ち上がると、マネージャーはビクッと体を震わせた。
下民が、お姫様に楯突くなんざ、許されないのよ。


「それじゃあ、ちゃんとお仕置き、受けてねぇ?」

「あ、!」

私はマネージャーの言葉を無視し、マネージャーが作ったドリンクを籠に入れて、水で手を冷やしてから部室を出た。
それを重たそうに持ちながら、レギュラーの元へと運ぶ。


「ふぅ…、皆、ドリンクだよ!」

私が声を掛けると、まるで蜜を求める蝶のように、レギュラーが私の元へと集まってくる。
そして、冷たくなった私の手からドリンクを受け取ると、皆は顔を顰めて部室を見る。


「…おい、1年のマネージャーはどうした」

「え、あ、実咲ちゃんは…」

私はそう言いながら、目を泳がせ、冷たくなった手を温めるようにぎゅっと強く握る。
すると皆はそれぞれ、眉を寄せて不快感を顕にする。


「…アイツ、また仕事してないんですか?」

「ち、違うよ!実咲ちゃんはちゃんと…」

「またアイツ、美鈴に仕事を押し付けやがったのか」

「跡部、こらまたお仕置き、やな?」

「…そうだな」

嗚呼。
なんて憐れな騎士なんでしょう。
でも、そんな所さえも愛おしい。
私は何も言っていない、1年マネージャーが仕事をしていない、なんて一言も言ってないわ。
ただ、私のことが大切でたまらない彼らが、勘違いをしてしまっただけ。
ふふ、可哀想に。
私に楯突くから、お仕置きを受けるのよ?
あのマネージャーは後で、練習後の後片付けを全て1人で行うというお仕置きを受けた。
いい加減、学習したらいいのに。
お姫様に、楯突くなってね。



*2012/11/10
(修正)2015/12/23




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