ホールから出て、長い廊下をただ淡々と歩く。 空の高みへと登り出した太陽がガラスを通し、廊下を明るく照らし出す。 そんな見慣れた風景も見納めなんだ、とどこか悲しいような、そんな感情が湧き上がるがすぐに消えた。 廊下には沢山の生徒たちの姿があった。 騒がしい廊下を進んでいると、よく見知った背中を見つけ、思わず頬が緩んだ。 今すぐ駆け出したい衝動を抑え、早足でその人の元へと向かう。 その時、数名の生徒たちの声が耳についた。 その数名の生徒たちの1人の声がやけに聞き覚えがあった。 そうだ、この声はさっき壇上で演説をしていたシュリ=オークだ。 「おい見ろよ、ミロク理事長のお気に入りだぜ」 「相変わらず仏頂面だな、挨拶も無しかよ」 「はははっ、お早うテイト=クライン坊ちゃま!」 何が楽しいのか、クスクス笑いながら、陰口を続けるシュリ=オーク。 子供じみた行動に思わず眉がよる。 陰口を言われているその人が殺気を抑えているのが手に取るようにわかった。 私はそんな嫌な雰囲気を振り切るようにその人、テイト=クラインに向かって走り寄った。 「テイト…!」 大きな声を出したので、必然的に私は注目を浴びた。 だけど他の人の目なんて気にならない。 私の視界にはテイトしか入ってなかった。 テイトは私の声が届いたらしく、ゆっくりと振り返った。 朝の光がテイトの翡翠の瞳に入り、とても綺麗に見えた。 「おはよう、テイト」 「キアラ…、おはよう」 朝の挨拶をすると、テイトは目を見開いてから、頬を緩め、挨拶を返してくれた。 テイトのその優しい笑顔を見て、私は安堵感に包まれたように温かい気持ちになった。 「なんでキアラちゃんが元奴隷なんかに…!」 その時聞こえたシュリ=オークの言葉に、思わず殺気が漏れる。 …元奴隷の何が悪い。 私だって、知られてないだけで元奴隷のような生活をしてたのに。 ふつふつと湧き上がる怒りを抑えられず、シュリ=オークに文句を言おうと足を踏み出した瞬間、手首を掴まれた。 「キアラ、落ち着けって」 「でも…」 「俺は大丈夫だから」 でも…、ありがとな、と顔を赤くし、視線を逸らして言うテイトに、私も釣られて微笑んだ。 もう陰口を聞こえないフリをして、歩き出した。 すると、テイトの肩にポンと手が置かれた。 「おはよう、ウワサのお坊ちゃま!」 そのどこかふざけたような、からかうような声は聞き覚えがあり、思わず苦笑した。 テイトはその声の主に向かって思い切り手刀を繰り出した。 「うっつぁしいわミカゲ!」 「おわっ!あれ、やっぱ分かった?キアラもおはよ!」 「おはよう、ミカゲ」 「1年もダチやってて分かんねえってか」 なんとか間一髪でテイトの手刀をよけたミカゲ。 何時もの光景に、私はいつの間にか頬を緩めた。 *2013/12/03 (修正)2015/12/17 |