ふと目を覚ますと何もない白い空間に独りで立っていた。 周りを見回すけど、誰もいない。 何処までも続く白い闇が私の思考を奪って行く。 誰も、いない。 そう考えると、目頭が熱くなり、胸が苦しくなる。 溢れ出す涙を堪え、誰かに助けを求めようと息を吸い込んだ。 だけどそれは声にならず、パクパクと魚のように口を開閉するだけになった。 声を出したいのに、喉でつっかかって出てこない。 “ティアシェ…” 誰のことかは分からないが、私の口はそう勝手に言葉を漏らしたが、それは声にはならなかった。 声にならない声が白い空間に消える。 息を吐くと、白くなり、消えて行く。 いつの間にか、白い空間は降り積もった雪になっていた。 それに気づいた瞬間、言いようのない寒さが体を冷やし、小刻みに震えてしまう。 “会いたい、よ…” 寒さで唇が震える。 ふわりと白い花びらのような物が空から降ってきた。 雪だ。 しんしんと雪が降ってきて、視界を遮る。 空を見上げると、灰色の分厚い雲に覆われていた。 何故か無性に悲しくなった。 うっすらと涙の膜が出来る。 そしてついに、頬を伝い流れた。 その瞬間、降り積もった雪の色が真紅に変わった。 綺麗とは言い難い、黒ずんだ赤。 そう、それはまるで…。 ▽▽▽ 遠くで、白いカーテンが風に靡き、ふわりと広がる音がした。 段々と意識が浮上し、私は薄暗い部屋の中で目を覚ました。 ゆっくりと上半身を起こし、周りを見渡す。 そしていつの間にか貯めていた息をゆっくりと吐き出した。 「…夢、か」 そう、夢を見た、ということは覚えている。 だけどその夢がどんな内容だったのこは覚えていない。 なのに夢を見たことは確かなのだ。 なんでそう言い切れるのかは分からないが。 もはや日常となりかけているこの現象のことを頭の隅に追いやり、壁にかけられている時計を見る。 正確に時を刻んでいるそれは、もう少しで見回りの先生が来る時間を告げていた。 欠伸を1つし、私はゆっくりと制服に着替えた。 バンっと扉が壊れそうな程強く壁に叩きつけられた音が部屋の中に響き、まだ寝ていた他の生徒たちが飛び起きた。 着替え終わった私は慌てて支度をする生徒を横目に部屋を出て行った。 ▽▽▽ バルスブルク帝国の第1区。 その中に、堂々と面を構えているのが陸軍士官学校。 そこでは明日の卒業試験前の最後の朝会が行われていた。 誰かが立派な壇上に立ち、演説をしているが全く耳に入って来ない。 私は教師に怒られない程度に周りを見渡し、人を探すが、人が多すぎて見つけられない。 退屈に苛まれ、ライトを浴びて煌びやかに見える壇上をぼうっと見つめていた。 長い朝会がやっと終わり、人の流れに逆らわずにホールから出た。 *2013/07/25 (修正)2015/12/17 |