「嫌です、レイヴンさんとは戦いたく――ッ!」

目の前にいる“騎士団の鎧”を纏った男と戦う事に躊躇っていると、頬に痛みが走る。
細く滴る血を感じ、剣でなぎ払われたのだと理解する。
それと同時に躊躇ったら殺されると言うことも。

「…全力でいかせてもらう」

低く唸るような声音に恐怖を感じる。
かつて、このような声を出す彼の姿を見たことがあっただろうか。
次々と繰り出される重い剣撃に、やっとの思いで防いでいるが、圧されているのは目に見えている。

「っ、あ…!?」

一閃を受け止めようと刀を構えたが、彼の力に耐えられず、刀が弾かれた。
それから少し遅れて腹部に鈍い痛みが走る。
彼の足が自分の腹を蹴り飛ばしたことを確認したと同時に身体が浮き、神殿の壁へと叩きつけられる。

「ぐ…、うえっ…」


――殺すつもりなんだ。


ゆっくりと此方に歩み寄る彼の姿を、口の中に広がる血を吐き出しながらぼんやりと見上げる。

「アルエ――!」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。逃げろ、と言う声が聞こえる。


――ごめんなさい、もう…動けないんです。


内臓とあばら骨を何本かやられたのだろうか。
痛みは治まるどころか酷くなるばかりだ。

気がつけば、カロルが側にいて、応急処置をしてくれていた。
ユーリが、リタが、ジュディスが。
皆が“レイヴン”と一戦を交えている。


――レイヴンさん。


声を出すことすら叶わない今、心の中で彼の名前を呼ぶ。
それに気づいたのかどうかはわからないが、一度だけ此方を振り向いた。
その顔には…酷く悲しそうな表情を浮かべ、此方を見下ろしていた。


――どうしてそんな顔をするのですか。


酷く悲しそうな表情を浮かべた彼に向かって弱々しく笑みを浮かべてやると、瞬時に無表情になり…。


――すまない。


だが、口許だけはそう、謝罪の言葉を告げるように動いていた。


――もう、戻れない。アルエちゃんに触れる事は叶わない。


もう一度振り替えると、既に気を失ってしまったのか、アルエは壁に凭れていた。


――傷つけるつもりはなかった、と言って誰が信じるだろうか。


レイヴンは薄く笑みを浮かべる。


――誰も、信じるはずがないではないか。



――胡散臭い男の言うことなど、誰も信じるはずがない――



Verrat

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