人を愛した事は何度もあった。
 
 
 
「お嬢さん、暇なら俺とお茶しませんか?」
 
 
 
 
「ごめん、興味ない」
「やっぱ無理」
「好みじゃない」
「好きじゃない」
 
 
 
でも愛された事は一度もなかった。
 
 
 
 
例え付き合ったとしても、愛を囁いても、そこに本当の愛なんてなかった。
いつだって、俺を突き放すのは女の方。
愛の欠片もない。
ただの暇潰し。ただのお遊びの恋愛ごっこ。
いつしか俺も、本気で人を愛す事は無くなっていった。
 
 
 
「楽しい?そんな愛のない事ばかりして」
 
 
そんな愛もない関係なんて。
 
 
 
「楽しいからやってるのさ」
「ふーん…ボウガンの、色男の考えてる事は良く解らないな」
 
 
 
色男。
何度そう呼ばれただろう。
自分も若ーーウキョウのように、女遊びが絶えない。
ヒョーゴやセンサーも最初はいい加減にしろだのと小言を言ってきたが、最近は諦めたのか何も言って来ない。
 
 
 
「女遊びなんかの何処が楽しいのかねぇ」
「何処が楽しいってのはねぇな。」
 
 
目の前にいる名前に問われ答えれば、彼女は顔をしかめた。
 
 
 
「目的もなくしてるのか?なら一体、何のためにやってるんだよ」
 
 
私には時間の無駄にしか思えない。
 
 
「あーそうだなぁ……時間の無駄ねぇ…」
 
 
 
一体何の為か。
確かに他人から見れば、女遊びなどただの時間の無駄にしか見えないだろう。
目的もなく、欲求を満たす為でもなく。
自分でも解らない。
そんな事、考えたこともない。
 
 
そしてふと何故か、自分が今まで誰かに愛された事があったか考えた。    
 
 
「俺さぁ…人に愛された事がないんだよ」
「は……?」
 
 
突然、的外れな事を言われ、名前は吃驚したようだ。
それでもお構いなしに俺は話を続ける。
 
 
「愛された事がないんだ。親も居ないゴロツキだったからなぁ」
 
 
 
 
両親の顔さえも知らなかった。
親の顔も知らず、愛情も受けず生きてきた。
今までどうやって生きてきたのか、今ではほとんど覚えていない。
ガキの頃の記憶など、もう朧気だ。
 
 
子を連れた男や母親らしき女を見かけると、見つめてしまう事がある。
そしていつも思うのだ。
自分の父親はどんな人間なのか。
自分の母親はどんな人間なのか。
 
 
あぁ、もしかしたら自分は…
 
 
 
「愛されたかったのかもしれない」
 
 
 
 
「無意識にさ、愛されたかったのかもしれない。誰にも愛された事がなかったからさぁ」
 
 
両親にも、誰一人として。
 
 
 
「だからさ、」
「アホらしいね」
「は?」
「くだらなすぎて吐き気がする」
 
 
名前は呆れたように言葉を吐いた。アホらしいと繰り返し、名前は俺と目を合わせた。
 
 
 
「愛された事が無いんだろう?」
「あぁ」
 
 
 
「愛されたかったんだろう?」
「…あぁ」
 
 
 
 
「だったらさぁ、」
 
 
 
 
 
「私と付き合えば良い」
 
 
 
 
 
「は……?」
 
 
 
何を言っているんだ名前は。
”私と付き合えば良い”?
 
 
 
「愛のない女遊びをするくらいなら私と付き合えば良い。私ならお前を愛せる」
「………」
「私はお前が嫌いではない、寧ろ好きだ。私なら…ボウガンを愛す事が出来る」
 
 
 
愛のない女遊びを続けるか、愛のある私を選ぶか。
 
 
 
「ボウガン、お前はどっちが良い?」
 
 
名前は真っ直ぐに俺を見つめていた。手を差し出された。
白く華奢な手と名前。
それを交互に見つめ、俺は腕を伸ばし名前の手を取った。
名前は伸ばした俺の手を掴み、強く握った。
 
 
その手はとても温かかった。
名前を見ると、普段は見ない、笑顔を浮かべていた。
とても優しい笑みだった。
 
 
名前はいつから俺の事が好きだったのだろうか?
もしかしたらずっと前から想われていたのかもしれない。
だとしたら俺は気付かない内に愛されていた。
自分の知らない所で、自分が知らない内に。
 
自分はずっと愛されていたのかもしれない。
 
 
 
いつから自分を想っていたのか、後で名前に聞いてみよう。
そう思いながら名前の頬に手を伸ばした。
頬に伸ばした俺の手の上に、名前の手が重なる。
 
 
やがてお互いの顔が近づいていき、唇に甘い味が広がった。
 
 
 
 
 
少年は愛される事を知らない
 
 
でも少女は愛を知っていた
 
 
 
それは少女が少年に示した
 
 
 
 
 
彼女の愛情論
 
 
 
 
 

笑顔宇華さま(無関心
 
 

 
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