よろけた身体を、1番近くにいた米屋に支えられる。ズキンズキンと頭に鈍い痛みが走ってきた。トリオンの残量は豊富だというのに、何故か酷く身体が重い。原因は、最近しっかり休息が取れていなかったからだと分かっているからこそ、とても悔しい。なんて情けないのだろうかと、自分自身を責める私を他所に、身体が限界だと告げている。

「甲斐、お前…」
「だいじょうぶ。私はまだやれる。」

心配そうに私を見てくる米屋を無視して、スコーピオンを構えた。目の前に現れた人型を睨みつける。米屋と駿くんは、こりゃ俺たちには止められねーなと軽く溜息を吐いた後、頷き合う。このメンバーの指揮権は、私に任されたようだ。

「攻撃が来ます!」

そんな中、三雲くんの叫び声が木霊した。

「鳥に触るな!キューブにされるぞ!!」

人型ネイバーが放った鳥によって、C級隊員の何人かが、諏訪さんのようにキューブにされたのが見えた。動物の形をしたアレらは、恐らく弾トリガーの一種だろう。戦況はあまり良くないと言うように、烏丸くんが叫ぶ。

「………、…」

ギリっと下唇を噛むと、口の中に再び鉄の味が広がった。思うように動いてくれない身体が、すごくもどかしい。

「落とせねー速さじゃねーな!」

そんな私を見かねた米屋と駿くんが、スコーピオンを構えて鳥を斬りつけようとする。しかし、一瞬のうちに、武器までもがキューブとされてしまった。

「駿くん!!」

新型が駿くんを捕らえる。へたり込んでいる私には、その援護さえも行き届かない。

「シールド!!…、…やべっ…!緊急脱出(ベイルアウト)!」

緊急脱出(ベイルアウト)する寸前の駿くんと目が合う。その目は酷く私を心配しているように見えた。力不足でごめんね。私は駿くんの顔をしっかり見ることが出来ず、俯いてしまう。…何をやっているのだろうか。人型ネイバーにばかり気を取られ過ぎていた。近くには新型がまだ3体残っていたのに。悔しさに、思うように動いてくれない大腿を殴る。しっかりしろよ、私。

「甲斐!お前のせいじゃねーからな!動けるか?」
「ごめん米屋…」

1番近くにいた米屋が、慌てて駆け寄って来てくれた。

「新型と連携してきやがる!」
「あらら………また状況が変わったな。メガネくん!女子連れて逃げろ!!…ハウンド!!」

苦い顔をしつつ何処か嬉しそうな米屋が人型ネイバーを睨みつける。出水は誘導弾を放ち、鳥を牽制した。…成る程。この相手は攻撃手と相性が悪い。だけど、私たちなら…!

「甲斐、弾は撃てるか?」
「…もちろん。まだやれるよ。」
「おっしゃ!俺たちなら無敵だな。ヒヨコ1匹通すかよ!槍バカは甲斐のフォロー任せたぞ!」

少し離れた位置にいた出水の問いに、頷いた。頭も痛いし身体も怠いし、今にも意識が飛んでしまいそうだけど、そんなこと言ってられない。この人型ネイバーは、弾トリガーと相性が良さそうだ。私と出水の火力で足止めする。グッと拳を握りしめて、前を見据えた。そんな私を見て、怪しく笑った出水の足元を、今度はトカゲのようなものが登っていくのが見えた途端、ガクン…と出水が前のめりに倒れた。一瞬の出来事で、頭は混乱していく。

「出水!」
「高い火力、繊細なトリオンの制御。ランバネインと撃ち合っただけのことはある。」
「…意外とヤラシーじゃねーか」
「メテオラ+バイパー=トマホーク!!」
「そっちの女も、手負いの状態にしてはなかなかやる。」

トリオンコントロールが上手くいかない。合成弾を作るのにさえ、時間がかかってしまった。

「甲斐!!」

米屋にグイっと右腕を引かれる。へたり込んでいた状態から、米屋の肩に腕を回し立ち上がった。慣れた手つきで、私の膝裏に手を入れた米屋は地面を蹴り、屋根の方へと登る。

「おらぁ!!」

先程私がいた場所には、新型が陣取っていた。米屋が助けてくれなかったらと思うとゾッとする。

「甲斐、しっかりしろよ。まだお前に倒れられたら困る。」
「分かってる。」

普段ならもう少し周りが見えていると言うのに。疲れた頭は、判断力を低下させる。

「千佳!!」

出水は逃げろと行ったのに、三雲くんは逃げていなかったようで、そんな彼と手を繋いでいたC級隊員の女の子がキューブにされてしまうのが、スローモーションのように見えた。 がくりと三雲くんが項垂れている。そうしている間にも彼らに身の危険が迫っているのに。

____________ただ最悪、メガネくんが死ぬ。

迅さんの言葉が頭を過った。

「おいこらメガネ!」
「………!!」
「ボサッとすんな!基地まで行きゃ、まだ全然助かる!」
「走れ修!お前がやるべきことをやれ!!」

出水と烏丸くんの声援で、三雲くんの表情が変わった。その表情は、風間さんと引き分けた時の…最後の一戦の時の表情に良く似ていた。やっぱり彼は、すごい。

「基地に向かいます!サポートお願いします!」
「おー、行け行け。コイツには1発お返ししなきゃ気がすまねーぜ」

出水に背中を押された三雲くんは走り出した。そんな三雲くんを新型1体が、追いかける。

「三雲くん!」
「!!フリーになったヤツがそっち行くぞ!」

慌てて私と米屋が叫んだ。ソイツは、私が駿くんを守れなかったせいで、フリーになったヤツだ。ごめん三雲くん…。

「おい甲斐。切り替え!」
「…うんっ!」

米屋に支えながら、再び地面へと降り立つ。

____________秀次の力が無いと、うちのメガネくんが危ない。

秀次は今、何処で何をしているのだろうか。彼のことだから、ネイバーを排除するために奮闘しているのは間違いないだろうけど、果たして彼は三雲くんを守ってくれるのだろうか。離れて行く三雲くんの背中をそっと見つめて、そんなことを思ってしまう。

「虫…?おい、甲斐!」
「りょーかい、ハウンド!」

人型は、私に考えに浸る間を与えてくれないようで、出水に名前を呼ばれて、慌てて視線誘導弾を放つ。大量の虫の形をしたものが、こちらに向かって飛んできた。弾トリガーをあそこまで細かく出来るの…!?

「ぐっ!!」

結局相殺しきれず、出水は左腕、私は右脚をやられる。

「どうした?1発お返しするんじゃななかったのか?」
「………余裕こいてんじゃねーぞ。このワクワク動物野郎。分かってきたぜ。てめーのトリガーは………トリオンにしか効かねーと見た」
「!!」

ハッと顔を上げると、出水と目が合う。それと同時に、国近先輩から通信が入った。

『いずみん、紬ちゃん〜。屋上に、狙撃手たちがスタンバイしたよ〜。』

その声を聞いて、私たちは頷き合う。やることは1つだ。

「「メテオラ!!」」

出水は左側の建物を、私はその反対側の建物を破壊した。

「うおっ!なんだ!?」
「ありがとう米屋」

バラバラと落ちてくる瓦礫を、右脚を庇い、這い蹲りながら避けていると、米屋が槍で、瓦礫を跳ね除けてくれた。

「ったく、弾バカ2人の世界を作るなよ。俺も混ぜろ」
「私もう射手じゃないってば。」
「…そう言うことじゃねーよ」
「ごめん、冗談。」

人型はトリオン以外での攻撃だと思っているのだろう。だけど、残念ながらその考えは外れだ。

「あらら……もっとビルとかあるとこだったらなあー………なんちゃって。」

ニヤリと怪しく笑った途端、ズドンッと弾トリガーが人型の腹を貫く。あの威力は、恐らくイーグレットだ。

「さあて、スタミナ勝負といこうか!甲斐!」
「大丈夫だよ。ついていく!!」
「アステロイド!!」
「メテオラ!!」

私は万能手になる為に、通常弾を手放してしまったから、炸裂弾を放つ。威力は劣るけど、トリオン量さえ調節できれば、それなりの破壊力をもつから、大丈夫だ。狙撃手たちが撃ちやすくなるように、人型をガードしている魚を削っていく。

「甲斐、大丈夫か?」
「うん。意識吹っ飛んでも、撃てるよ。最悪、バイパー残すから。」
「ある意味怖えーよ…」

1番近くにいる米屋は、新型を相手しつつ、私の体調を気遣ってくれる。火力勝負となったからには、出水よりも私のトリオンの方が先に尽きる。私の役割は、今回、ここで終わりになりそうだ。

____________もしも、秀次が動いてくれそうになかったら、君がアイツの背中を押してやってくれない?

そんな時に思い出してしまう迅さんの言葉は、まるで呪いみたいだ。今回の戦いで、私と秀次は、本当に近くに居なかった。今の自分のコンディションを冷静に考えると、トリオンが尽きるのと同時に、多分、意識を飛ばしてしまうと思う。そうなった時、三雲くんの命は、大丈夫だろうか。

「米屋、お願いがある。」

ボソッと呟いた言葉は、米屋に届いただろうか。私の1番近くに居たのが、米屋で本当に良かったと思う。

「当てんのかよ!うちの狙撃手どもは変態だな!」

興奮したような出水の声とは裏腹に、私は言葉を発するのも億劫になってきた。船に乗っているかのように、地面が揺れているように感じて気分が悪い。こめかみを抑えて頭痛に耐えつつ、だけど、それでも弾を放つことは止めない。

____________助けて!紬ちゃん!!

何処からか少女の泣き声が聞こえて来る。

____________お姉ちゃんが!死んじゃうっ!!
____________どうせすぐ治るんだから、盾にくらいなってくれても良いじゃない!!

「…っ……バイパー…、」

____________紬。

視界が暗転していく。近くにいる米屋の叫び声が聞こえたけれど、こっちに来れる状態ではなさそうだ。ああ、私はここまでなんだな…。それを悟り、最後の足掻きを込めて変化弾を残した。

「………緊急脱出(ベイルアウト)、」

ねえ、秀次。私はあの頃と比べて、変わったのかな。

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