本部に人型近界民が入ったと通信で連絡があった時、1番に紬の顔が浮かんだ。本部には、エンジニアとして働く紬の母親がいる。紬の所在地をオペレーターに問おうとして止めた。今は公私混同している場合ではない。

「…クソッ」

______違うよ秀次。私がお父さんを殺したの。

紬が、本部へ行けないのなら、俺が代わりに行ってやりたかった。大切な存在を失う辛さを、アイツには、もう2度と味わわせたくない。その辛さを、充分というほど知っている俺たちだから、余計だ。それに、アイツが壊れてしまうのをもう見たくなかった。

バンバンバンッ、とアステロイド(拳銃)を放ち、目の前に現れた雑魚のトリオン兵を排除して行く。任務に集中しなければと思えば思うほど、紬の顔がチラついた。何やっているんだと苛立つ。今、紬の側へ行ったところで、俺がしてやれることなんてないだろうと思い、それがさらに俺を苛立たせる。もっとちゃんと、話をしていれば良かったのだろうか。頭ごなしに否定するのではなく、紬のことを、もっと考えてやれば良かった。
紬のことになると、調子が狂う。その理由にも、とうに気付いているのに、上手く立ち回れない。

_____また消したらいいでしょ。
_____もう秀次!私はあの頃とは違うよ!!

何も違わない。俺からして見れば紬は、今も昔も何も変わらないんだ。

































先ほど保護した男の子を、無事にシェルターまで届けることができて、ほっと一息漏れる。さらに幸いなことに、その子のお姉ちゃんは、シェルターまで避難していたようで、2人は安心したように再会を喜んでいた。そんな2人の姿に、自然とこちらも頬が緩む。

「本部、こちら甲斐です。先程伝えた一般人の少年を無事に避難させました。次の指示をください。」
『甲斐。こちら風間だ。甲斐は、C級の援護をしている米屋や出水たちと合流しろ。』
「甲斐、了解」

本部へと問いかけた声は、自隊のオペレーター・歌歩に拾われたようで、通信先から風間さんの指示が飛んでくる。
個人的には、せっかく本部の近くに戻ってきているので、本部に侵入した人型の討伐メンバーに加わりたかったのだけど…風間さんにそう言われてしまったからには、逆らうなんて出来ない。私は、他の誰よりも私の隊の隊長を信頼している。風間さんがそうしろというなら、それに応えられるよう頑張るのみだ。きっと何か…考えがあるんだと思う。それに何より、今は仕事中だ。公私混同してはならない。よし、と息巻いて地面を蹴った。

走りながら、色々な箇所から通信が飛び交うのが聞こえてくる。戦況は、かなり混沌としてきているように思われた。
東さん率いるB級の合同部隊が、人型ネイバーを1人撃退したという喜ばしい情報が入ってきたかと思えば、本部に侵入している人型ネイバーに、何人か殺られてしまったという悲しい情報までもが飛び交っている。
また、新型トリオン兵と戦った木虎ちゃんから、新型は、C級隊員を捕らえるのが目的ということが判明した。それなら尚更、援護へと急がなければいけない。

「メテオラ!!バイパー!!」

所々で現れる雑魚のトリオン兵を排除しつつ、目的の人物たちの姿を探した。探している途中で、軽い立ち眩みがしたけど、ばちんと頬を叩き、気合いを入れ直す。まだ倒れるわけにはいけない。
アイツらのことだから、また派手にやっていると思うんだけど、と思った瞬間だった。

"ドカンッ"

弾トリガーによって、茶色の煉瓦の家がバラバラと崩れていくのが見えた。
あの威力の弾が打てるのは、出水かニノさんくらいだ。風間さんから、出水たちと合流しろって指示された場所に向かってたんだから、今の攻撃は絶対出水だ。そう思った私は、崩壊していく家の方へと加速していった。

「大当たりー、」

其処には、探していた人物たちに加え、烏丸くんや三雲くんまでいた。その付近には、私たちが守らなければ行けないC級隊員たちが控えている。
駿くんの後ろに新型ラービットが迫っているのが見えて、走って荒がった息を整える間も無く自然と体が動く。駿くんは、目の前のトリオン兵で手一杯って感じで、後ろには気づいてないし、近くにいる米屋と出水もだ。その後ろに烏丸くんがいるけど、彼の後ろに控えているC級隊員を守るのに精一杯な様子だった。

「世話が焼けるなぁ…。
ハウンド+メテオラ=サラマンダー!!」

登場としてはド派手な登場となってしまったかもしれないけど、そんな事気にしている場合ではない。私の姿を見た駿くんは、嬉しそうな顔をしてくれたのに対し、出水と米屋は、なんか微妙な顔をしている。烏丸くんに至っては表情が読めないし、三雲くんやC級隊員たちは、ポカンとしている。まあ、知らない人間が突然現れたらこうなるよね。

「来ない方が良かった?」
「全然!紬先輩がいてくれたら心強い!!」
「いや、そういう訳じゃねーよ。」
「秀次には会ったのか?」

駿くんの頭を軽く撫でつつ、同級生2人を睨みつけた。その後、目があった烏丸くんには直ぐ様目を逸らされる。あ、逃げたな。

「秀次には会ってない。米屋こそ、どうなの?」
「俺らは別行動だな。合流しろとか言われてねぇし。甲斐こそ、秀次が心配なら、そっち行けよ?」
「行く訳ないでしょ。風間さんの指示でこっちに来てるんだから」
「へーへー、真面目だな。」
「…なに、文句でもあるの?」
「おいおいお前ら、なんでそんな喧嘩腰なんだよ。」

何故、秀次と一緒にいないのかと米屋に責められているような気分になって、思わず言い返してしまった。せっかく今は、秀次のことは考えないようにしていたのに。そんな私と米屋を見ていた出水は、呆れたように溜息を吐いた。

「つーか、甲斐。身体は大丈夫なのか?」
「トリオン体だから問題ないよ」

先程、立ち眩みがしたのは黙っていよう。絶対面倒臭いことになる。秀次に言われたらたまったものではないし、そもそも、自己管理ができていない私の責任だから、心配される筋合いはない。

「えっ、紬先輩調子悪いの!?」
「いや、ただの寝不足だから。心配しないで駿くん。」
「おいお前ら、話してないで仕事しろよ。アステロイド!」

出水は呆れたような視線を寄越しつつ、嬉々として新型を火力で捩伏せようと、弾丸を放った。

「はあ…3人とも好きに暴れなよ。フォローするから」

出水、米屋、駿くんの3人それぞれの視線の先には1体ずつ新型がいる。私はいつでも3人の援護が出来るようにと、その中央に立った。そして、遠巻きにこちらを見ていた烏丸くんに、合図を送る。とりあえず、C級隊員を逃さなければいけない。
私の意図が伝わったのか、烏丸くんが三雲くんに何か指示を出しているのが見えた。よし。これで私は、私の仕事に集中出来る。

「ハウンド!」

駿くんを重点的に援護しつつ、米屋と出水の様子を盗み見る。彼等の方も少し苦戦しているみたいだった。でも、焦ってはダメだ。一体ずつ確実に落としていかないと。戦地において、焦りは禁物だ。

「出水、後ろ!」
「見えてるぜ。アステロイド+アステロイド=ギムレット!」

飛び立った新型が、死角から出水を狙うのが見えて、慌てて声をかけたが、余計なお世話だったようだ。そのことに安堵しつつ、再び視線を駿くんに戻す。横目で米屋を見たが、落ち着いている。なんとか大丈夫そうだ。
背後から凄まじい爆発音が聞こえてくる。暴れすぎでしょ、と出水に視線を向けるが、違うようだ。

「甲斐、撃ち落とせ!」
「(出水じゃないなら、誰…?C級隊員…?)、もう簡単に言わないでよ!バイパー+メテオラ=トマホーク!」

米屋から指示が飛んでくる。誘導炸裂弾を放ち、米屋が対峙していた新型を再び地面に落とすことに成功した。
そして、再び駿くんに視線を戻す。

「紬先輩!」
「大丈夫、見えてるよ。ハウンド!」

誘導弾で、新型の動きを制限し、援護を行った。それにしても、私1人では、フォローが間に合わない。どうしたものかと頭を抱える。
C級隊員の方へと視線を向ける。まだ全然、逃げきれていない。このままでは非常に不味い。焦る私を他所に、目の前に新たな門(ゲート)が開いた。勝利の女神は私たちに味方をしてくれないようだ。

そこから、人型の近界民が現れる。ギリっと唇を噛み締めたら、鉄の味が口の中に広がっていった。

14/15

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -