『すまない、通信が途中で途切れたようだ。』
「いえ、大丈夫です。あの風間さん、本部に侵入した人型って、もしかして…」

私たちと戦ったアイツですか。なんとなく、そんな予感がした。不安が拭えなくて、思わずそう問いかけてしまった。

『甲斐、指示は聞こえていなかったのか?』
「………南部にいる村上先輩のフォローです。」
『聞こえているなら、余計なことを考えず動け。今やるべきことに集中しろ。』
「すみません…」

風間さんの淡々とした声が、胸に突き刺さる。

「大丈夫か…?風間さん容赦ないなぁ…」

心配そうにこちらを見る太刀川さんに頭を下げる。

「すみません、行ってきます」
「おう!行ってこい!本部には忍田さんがいるから、大丈夫だ。」
「ありがとうございます…!」

太刀川さんに、バシンッと背を叩かれる。
風間さんは、違うとは言わなかった。それが何を意味しているのか、痛い程に分かってしまう。私は、また誰も守れないのだろうか。いや、駄目だ。こんなことを考えている場合じゃない。

「では、また。」
「ああ、甲斐。」
「はい?」
「あまり気負いすぎるなよ。武運を祈る!」
「!、はい」

背を向けて走り出す。太刀川さんに、なんだか心を見透かされているような気がした。
普段、出水や国近先輩の前では、ちゃらんぽらんなのに、こんな時だけあの人はズルイ。そういう所も、迅さんによく似てる。迅さんの顔が浮かんできて、フルフルと頭を横に振る。集中しないと…!秀次だって、今もどこかで戦っているんだから。

"ドクンッ………"

____________あの子は不死身だから、大丈夫だよ!!
____________死んだりしないよ!怪我してもいっつもすぐに治っちゃうんだから!!
____________何それ、人間じゃないんじゃない?
____________人間じゃないとしたら…

"バケモノなんじゃないの"

「…っ………!!…はっ…う、」

急に走っていた足を止める。乱れた呼吸が上手く整えられなくて、余計に混乱した。肺が必死に酸素を求めているのが分かるのに、上手く息が吐けない。頭がボーッとしたような感じがした後、物凄く頭が重たく感じ、痛みが走った。あまりの痛さに、その場にしゃがみ込んだ。
こんなことをしている場合じゃないのに。早くしないといけないのに、そんな思いがさらに私を追い詰めていく。
エンドロールのように、見たこともないような光景ばかりが頭を過っていった。なんだこれ、と恐怖に駆られる。そのどれもが、あまり良い思い出ではなく、寧ろ辛く苦しいものだった。

こんな事あっただろうか?これが、秀次が消した記憶…だとしたら、なんてあまりにも、

____________紬。

落ち着け、私。大丈夫。強くなるためにボーダーに入って、私は強くなったはずだ。そんな気持ちとは裏腹に、暖かな光を雲が隠していく。

「お姉ちゃーんっ!!…どこっ…!?」

そんな時だった。私の思考が、別の方へ変えられる。そのきっかけは、小学生くらいの男の子の叫び声だった。
べちん、と思い切り頬を叩く。何をやっているんだ、しっかりしろと何度思ったか分からない言葉を、今度は口に出して言い聞かせた。市内には私たちボーダーの助けを必要としている人たちがたくさんいる。私はボーダー隊員だ。ボーダー隊員が、こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。

「どうしたの?」

泣き叫んでいる男の子の方へ、ゆっくりと近づき、なるべく優しい声音で声をかけた。

「………おねえちゃんが、いなくて」

ボソリと弱々しく紡がれた言葉は、私の耳にしっかりと届いた。

____________姉さんは、ネイバーに殺されたんだ!

嗚咽交じりに、何があったかを伝えてくれた男の子の話を要約すると、忘れ物を取りに行ってくるから待ってて欲しいと姉に言われたが、姉が一向に戻って来ず、探しに家に戻ったが、姉の姿が何処にも見当たらなくて泣いていたそうだ。
話だけを聞いていたら、最悪の場合も頭に過ったけれど、それは伏せて、なるべく安心させてあげれるように、男の子に声をかける。

「君のお姉ちゃんは、もしかしたら、避難所にもう着いてるかもしれない。私の仲間が、既に見つけて安全な所に避難しているかもしれない。大丈夫だよ。君の大切な人は、私が守るから。」

あの日の自分よりも幼い男の子が、肩を震わして必死に恐怖を耐えている。そっと、男の子を抱きしめる。大丈夫、大丈夫だよ。男の子が落ち着くまで、背中をさすり続けた。

「ありがとう、ボーダーのお姉ちゃん。」
「どういたしまして。私と一緒に、安全な場所に行こうね。」

ニッコリと笑って、男の子を抱き上げた。

「本部、こちら甲斐です。逃げ遅れた一般市民を保護しました。小学校低学年くらいの男の子です。男の子は、姉と一緒に逃げていたそうですが、途中で逸れてしまい、迷子になってしまったようです。
男の子を安全な場所へ避難させたいです。よって、村上先輩のところへの合流は難しくなりました。」
『こちら忍田だ。近くに柿崎隊がいるから、村上の方へは柿崎隊に向かわせる。甲斐は、その子供を非難シェルターへ連れて行け』
「甲斐、了解。」
『頼んだぞ。』
「もちろんです。」

不安そうに私を見つめてくる男の子の頭を、そっと撫でた。

「今から安全な所に行くからね。しっかり、お姉ちゃんに捕まってて。」

背中に回された腕に、力が入ったのを確認し、思い切り地面を蹴り、走り出す。

「喋っちゃ駄目だよ。舌を噛んだらいけないから。」

立ち止まっている暇なんて、ない。

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