諏訪さんと出会ったのは、3年前のボーダーの入隊式でだった。あの頃の私は、約1年間の長い入院生活を終えて、ようやく普通の生活に戻ったばかりで、本調子と言える状態ではなかった。
だけど、そんな状態でも、ボーダー隊員になった秀次に、置いていかれたくなくて…彼を守りたくて、退院した途端に、周りの反対を押し切ってボーダーに入隊したのだった。
秀次は、正隊員と言えど、流石に入隊式には着いて来られなかったので、知り合いもいない中で、私は入隊式を迎えた。緊張しているのもあって、誰にも話しかけることができず、1人心細く、ポツンと立っていた。そんな私に、声をかけてくれたのが、諏訪さんだった。

「小せえな。いくつだ?」
「中学2年生です。」
「気分でも悪りーのか?」
「いえ、そう言うわけではないのですが…実は、ちょっと緊張しているんです。」

はじめは、見た目の印象から、怖い人だと思った。眼つきが鋭くて、お世辞にも口は良いとは言えない上に、背も高かったし、年も結構離れていたから、親しくはなれないだろうなと思っていた。

「俺は、諏訪洸太郎。高3だ。よろしくな!まあ、そんな緊張すんなよ!誰もお前を取って食ったりしねーよ」

ガシガシと頭を撫でられたせいで、髪がボサボサになってしまったから、その時は抗議の声を上げた。この人、ちょっと苦手かもしれない…とまで実は思ってた。
それが今となっては、あの時の手の温かさに、緊張した体からホッと力が抜けたんじゃないか、なんて思うぐらいに、心を開いている。正直、こんなに仲良くなるなんて当時は思っていなかったから、あの頃の私に、それを告げれば驚くだろう。

「甲斐 紬です。よろしくお願いします。」

それからというものの、諏訪さんは、私の事を時々、気にかけてくれていたように思う。
風間隊に入ることになった時は、風間さんの下なら何よりも安心だと、物凄く喜んでくれて、私が寝不足でしんどい時に、私を休ませるよう風間さんに進言してくれたり、落ち込んでいる時にご飯に連れて行ってくれたりした。
困った時に助けてくれるお兄さんのような存在の1人でもある。いつも、私は助けられてばっかりだ。
だからこそ、今日は、私が助けないと。
ギュッと拳を握りしめた。





















「ハウンド+メテオラ=サラマンダー!!」

ドガンッと誘導炸裂弾を撃ち放って、新型の動きを封じる。新型が動かなくなった隙を狙って、風間さん、菊地原、歌川が一気に飛び上がった。
ステルス戦闘のフォーメーションを作った3人の輪から外れて、様子を伺いつつ、いつでも援護が出来るように体勢を整える。先程の発言通りに、まずは耳を切断することに成功した。

「、電撃来ます!」
「シールド!」

歌歩の声が聞こえて来たかと思えば、電撃が予測される位置情報が視界に掲示される。
体勢を整えようとしている歌川に直撃する可能性があったので、慌てて歌川の方へとシールドを張った。

「甲斐先輩!」
「っく…!メテオラ!!」

新型の電撃を防いだ後、炸裂弾を放ち、体勢を整える。たった数秒の間に起こった目紛しい出来事に、若干息が上がってしまった。ちらりと風間さんに視線を移した。私とは違い、相変わらず冷静な隊長に感服する。

「甲斐!」
「大丈夫です!ハウンド!!」

言葉少なな合図でも理解出来る。行け、と言われた気がした。行けるか?ではなく、行けと。信頼してくれているのだと思っても良いだろうか。いいや、そう思おう。だって、私に自信という感情を教えてくれたのは、風間さんだ。
根なんて上げてられない。闘ってやる。絶対に、諏訪さんを助けるんだ!!

「………っせい!!」
「アステロイド!」

スコーピオンを構えて、新型に単身で斬りかかった途端に、歌川の援護が飛んでくる。後ろに彼等がいる、それだけなのに、物凄く頼もしい。
足にダメージを与えた後、今度は、風間さんと菊地原が其処を目掛けて取り掛かった。
ガキンッと斬撃音が響く。焦りも恐怖も感じなかった。大丈夫だと、そうみんなに言われているような気がする。自然と思考はクリアで、落ち着いていた。

____________紬、ネイバーは悪だ。

こんな時に、憎しみの篭った秀次の声が、不意に響いて来た。
このネイバーは悪だと、胸を張って言えるよ、秀次。この戦いを早く終えて、秀次に会いたい。話したいことがいっぱいある。
その時私を、彼は受け入れてくれるだろうか。

____________もっと自分に正直になってみろよ?それとも怖いか?秀次に嫌われるのが?

どうしてこういう時に限って色々と思い出してしまうのだろう。この短期間で、私の頭をパンクさせるには充分の出来事がありすぎたんだ。ダメだ、集中しないと。今は任務中だ。

「甲斐!何してる、…ッシールド!」

そんな私の心の揺れを見抜いたのか、途端に風間さんに咎められる。すぅ…と息を吸って、はあっと吐き、何度か深呼吸を繰り返した後、パチンッと思いっきり頬を叩く。
トリオン体なので、痛みは大したことないけれど、自分を鼓舞するには充分だった。

「すみません、行けます!風間さん!」
「…だろうな。そうでないと困る。」
「はい!」

ビュンッと飛び立った風間さんの背を追いかける。この背中があるから、私は前を向けるんだ。

「バイパー!!」

無数の変化弾で、新型を翻弄させる。
その隙を突いた風間さんと菊地原が勢いよく飛びかかっていく。私と歌川は援護へと回った。
綺麗にシンクロされた連携攻撃。これで終わりだ!と二つの刃が、新型の急所へと突き刺さった。
よし!と空に向かってガッツポーズをする。バラバラッと新型が崩れていった。

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