真っ白な視界から、酷く懐かしい光景が見えて、あまり聞きたくない声が聞こえてきた。
____________気持ち悪いっ!!
____________リサちゃんが言ってたよ、紬ちゃんって化け物なんじゃないかって!
____________化け物の親に捨てられて、今の人間の親に拾われた子なんじゃないの?
『違う!!これは、私のこれは…』
____________寄るな化け物!
ちがう、私は化け物なんかじゃない。
どうして、嫌われてしまうんだろう。
私は、ただ…守りたかっただけなのに。
____________大丈夫だからな。
『秀次…』
思えば昔から秀次は、優しかったような気がする。
あの頃は、サイドエフェクトのことも知らなかったはずなのに、私のこのサイドエフェクトを見ても、気持ち悪いとか言わず、いじめっ子から守ってくれてたみたいで。
秀次がいたから、私は幼いながら、この力を嫌いにならなかったんじゃないだろうか。
今でこそ、その記憶は曖昧なのが、悔しいけれど。そんな気がする。
____________紬、そのサイドエフェクトは、自分の為に使うんだ。さあ逃げて?
嫌だよお父さん。行かないで。
行ってしまっては、もう会えなくなる。
また私は、この力を嫌いになってしまう。
私になら、守ることができるんだから。
『お父さん!』
呼びかけても反応してくれない父の身体から、赤黒い血液が吹き出すのが見えた。
視界が白からどんよりとした灰色になり、それは次第に黒くなって行き、覆い尽くしてしまう。
____________庇ってくれなくて良かった!私はあんなのじゃ死なないのに、どうして!?
1人の少女が、ボロボロの身体で、ポロポロと涙を零しながら、座り込んでいる。
あれは…中学生の頃の私だろうか。
『泣かないで』
手を伸ばして、抱きしめてあげたいけれど、パチンっと何かに防がれる。
____________紬のサイドエフェクトは、紬を傷付ける為にあるんじゃないだろう?お母さんのことを頼んだぞ。
____________嫌だ!!どうして、
守りたかったのに、それすらもさせてくれなかったの。
私が弱いのがいけないのか。だったら強くなってみせる。もうなにも失いたくない。
なんだ私、私自身が1番嫌いなのは、こういうことか。
____________俺、ボーダーに入ることにした。
秀次まで、置いて行かないで。
私の知らない所で、傷付かないで。
私の知らない所で、消えてしまわないで。
私の知らない所で、1人で闘わないで。
私に、私に、あなたのことを守らせて。
『私もボーダーに入隊するよ』
私はボーダーに入って強くなる。強くなって、私も秀次や、大切な人たちのことを守る。
____________ならお前も約束しろ。俺の前からいなくならないと。
『秀次…』
____________甲斐、お前の力が必要だ。俺の作る隊に来い。
『風間さん…」
____________お前の力が必要だ。
本当に?あなたの下でなら、私は強くなれますか。
もう大切な人を失いたくないから、強くなりたい。
大切なひとを守れるくらい強く。そんな力が欲しい。
「……い。……せんぱ……。…せんぱい…、…甲斐先輩」
____________甲斐 紬先輩だよ。風間隊のNo.2の。
____________憧れちゃうよねー
違うよ、私は…私は…みんなが思っているような存在じゃない。すごくなんてない。
まだまだだ。私の力は、こんなものじゃない。
「甲斐先輩!!」
闇の底から光が射したかのように、視界がクリアになる。ぼんやりとしたそれが、はっきりと見えるようになると、そこには不機嫌そうな菊地原が立っていた。
「何やってんですか。サボりですか?」
ブツブツと文句を言いつつ、私の身体にかけてくれていたのか、菊地原の灰色のパーカーを奪われる。
「三輪先輩が探してましたけど?」
「あ、!!」
その一言で、一気に目が覚める。
そうだ、今日は秀次に話したいことがあるって、会う約束を取り付けていたのだった。
「…寝れてないんですか?」
「え?」
そっと、菊地原が瞼の下を指差す。
「酷い顔になってますよ」
「………女の子に向かって失礼でしょ」
「なら、それ…なんとかしてくださいよ」
はあ、と盛大に菊地原が溜め息を吐いた。
もう話すことはないと言うかのように、作戦室を出て行ってしまう。私は、素早く秀次にメッセージを送ると、1度鏡の前で、まず髪の毛を整えた。
鏡に映る自分の顔を見て、苦笑が漏れる。
「はは、本当だ。酷い顔。」
その後、コンシーラーで、先程指摘された隈を隠す。
こんなことしても秀次にバレてしまうのかもしれないけれど、何もしないよりかはマシだろう。
「よし、行くか。」
ふう、と息を整え、足を踏み出した。