今日はする事がないから自分磨きでもするか、と思い本部にやって来た。ボーダーに入り、訓練室に足を運んでいる途中の廊下が、いつもより騒ついており、何かあったのかと首をかしげる。
確か、今日は入隊式だったはずだ。…ということは、玉狛に入ったあの子も、入隊したのだろう。
あの子は、三輪隊を1人で圧倒したと言われていたし、大型新人来たー!とでも盛り上がっているのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、右のポケットに入れているケータイが振動したのを感じた。
確認すると、菊地原からだった。
菊地原から、連絡が来るなんて珍しいな。明日は雨だろうか。そんな呑気なことを考えながら、内容を開ける。

「え!?」

そこには、風間さんがB級隊員の三雲修という少年に模擬戦を申し込み、今まさに、その最中であることが記されていた。
三雲修?どこかで聞いたことのある名前に、首を傾げる。だが、思い出せない。
とにかく、模擬戦を見に行かないわけにはいかないので、菊地原に場所はどこかと返信した。
1分もしないうちに、訓練室だと返信が来る。当に私が今、そこに入った所だったので、それを確認した途端、私は後輩2人の姿を探した。

「菊地原!歌川!」

後輩2人の姿を見つけると、菊地原は気だるげに此方を見つめ、歌川はこっちですと手招きをしてくれた。
正反対な2人の反応に苦笑が漏れる。
辺りには私たち以外に、玉狛の烏丸くん、嵐山隊の木虎ちゃんや充、そして、あの時の少年がいた。
その子は私のことを覚えてくれていたみたいで、ペコリとお辞儀をされる。私は、にっこりと微笑んでおいた。
意外にも見物人が少ないなと感じていると、それを汲み取ったのか、歌川が充が人払いをしたということを教えてくれた。
従弟の素晴らしい気遣いに、本当に出来たヤツだと感動する。

「で、どんな感じ?」
「もうすぐ、11戦目がはじまりますよー。ちなみに、風間さんが全勝です。」
「へえ…風間さん全勝かー。これやる意味ある?」

私の呟きに、同感と言わんばかりに菊地原が頷いた。

"トリオン供給器官破壊。三雲ダウン。"

「何度やったって同じでしょ。
B級に上がりたてのやつが、風間さんに勝てるわけがないんだから。」

酷い言い草であるが、同感だ。
三雲くんの動きに視線を移すが、はっきり言って弱い。
動きに無駄が多いし、何より迷いが生じているのもわかる。風間さん相手にどう闘うか、思案している様子だ。
だが、顔つきは良い。やる気の無い感じではなく、むしろ正反対だ。
一矢報いたい、そんな思いが伝わって来る。

「でも、いい目をしてるね。」
「甲斐先輩は、どっちの味方ですか。」
「まあまあ、菊地原。でも、俺も、甲斐先輩の言う通り根性あると思いますよ。俺だったら、もう止めてる。」
「そもそも受けないでしょ、普通。」

菊地原の言葉に同意する。
自分よりも、実力がかなり上の人から対戦を申し込まれたら。私も余程の理由がない限り引き受けないと思う。鍛錬というなら別の話だけど。
再び三雲くんに視線を移す。風間さんに瞬殺でやられているのは、これで何回目だろうか。
それでも、三雲はやめたいと言わない。
そんな三雲くんに、風間さんがもう止めだと告げる。
そして、此方には届かないくらいの声で三雲くんに何かを言っていた。

「お願いします!もう1回、後1回だけ」

風間さんに、何を言われたのかはわからないが、三雲くんの雰囲気が少し変わったのが、此方から見ていてわかる。
もしかしたら、もしかするんじゃないか。
でも、風間さんに負けて欲しくはない。
複雑な思いが交錯する中、最後の戦闘開始の声が聞こえた。















「あんなのと引き分けちゃダメですよ。
僕なら、100回戦って100回勝てる…あんなパッとしないメガネ」

三雲くんと風間さんの最後の勝負は、引き分けだった。
その結果が気に入らない菊地原は、横でぶーぶー文句を言っていた。

「そうか?遅い弾で空間を埋めるとかいい手だったと思うが…」
「あんなのトリオン無限ルールだから、できたことでしょ。
最後の大玉だって、一回両防御して、それから差し返せば良かったんですよ。」
「そうだな。張り合ってカウンターを狙った俺の負けだ。」

風間さんの言葉に、しっかりしてくださいよという菊地原。
歌川はそれを聞いて、お前はなんでそんなに偉そうなんだと頭を抱えている。
私はそれに同感だと言わんばかりに、首を縦に動かした。

「そういえば、昔のお前に似ているかもな、甲斐。」
「え?私に?」

私、あんなに弱かっただろうかと首を傾げる。
菊地原は、全然似てないでしょとブツブツ言っているし、歌川も不思議そうな顔をしていた。

「あぁ。最後の一戦の時の三雲。昔、俺の所に稽古をつけてくれと言いに来た時のお前に似ていた。」

____________風間さん、私…万能手になりたいんです。

昔の自分が、風間さんにどんな風に映っていたか、分からない。
少なくとも、私は似てないと思う。似ていると言ったら、三雲くんが可哀想だ。
彼はきっと、前を向いて歩いている子だ。

「私とあの子は、正反対だと思いますよ。」

三雲くんは、私にはないものを持っていると思うから。

「強くなると良いですね、あの子。」

風間さんにそう告げれば、風間さんはそうだな、と頷いた。
後ろで菊地原は、まだブツブツ言っているが気にしないこととする。
そんなことを思っていると、ブーと携帯が振動するのを感じた。
内容を確認すると、私は風間さんたちに一言告げ、走り出した。

[甲斐チャン。時間あったら屋上に来て]


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