俺からみた世界

きっかけは、なんだったか__。

同級生の女子に、副作用(サイドエフェクト)を持っている奴がいると荒船が言っていたのを聞いてから、相原のことをよく見るようになっていた。副作用と書くだけあり、この能力で苦しんだことも多かった俺は、彼女も同じような苦しみを抱えているのではないか、と思っていた。だが、あの日。相原を視界に捉えて全てが覆った。

__私なんて、

光も闇も移していないような瞳。外の世界の全てを受け入れていないようかの顔は、まるで、この世に自分が存在していないとでも言うかのようだ。触れてしまえば、そのまま壊れていくかのような危うさ。
 カゲは相原を見ると、苦しくなると言う。相原が纏う負の感情が、近づけば刺さるらしい。それは、つまり、常日頃から相原が苦しみに捕らわれていることを表している。なんとかしてやれないか。ずっと、相原のことを目で追ってしまう日々を送りはじめるようになったのは、そんな情けからだった。

「相原のことが、好きだから。……か」

果たして、その感情は正しいのだろうか。そう発しておきながら、そんな風に思う俺は、酷い奴なのかもしれない。だが、あの日。そう告げたとき。微かに相原の瞳に光が宿っていた。その時の表情が、とても美しかった。純粋に可愛いと思った。もっと、見たい。そう思った。

「……此処に居たのか」

いつからか、俺達は2人きりで会うようになっていた。提案したのは相原。荒船と仲違いした時に、落ち込んでいた俺を見た相原が言った。

__だから、一緒に探そうよ。自分が納得できる理由

手袋で覆われた手は、いつも震えていた。それにも関わらず、やさしい言葉を紡げる子。他の奴には分かってもらえないだろうことを、意図も容易く理解する聡い子。彼女を知れば知るほど引き込まれていく。助けたいと思わされる。何かに捕らわれる相原を、解き放つ方法を見つけてやりたい。

「む、むらかみ、く…」

ポロポロと零れ落ちる雫を拭ってやれるのに。震える体を抱きしめてやれるのに。自分自身を否定する相原の良さを知っているのに。何をしても届かない。それほどの傷をきっと抱えている。

__アイツのこと頼むよ。お前なら助けてやれるから。俺の副作用(サイドエフェクト)が、そう言っている

「ごめんね…」
「謝らなくていい。今は、俺しかいない」

幾度と見てきた、この表情。眠りにつく度に清明に思い出してしまうこの表情。

「むらかみくん、」
「相原。俺に、抱え込んでいるものを話してみてくれないか」
「え、」
「俺なら、大丈夫だから」

何を言われたって、嫌いになったりしない。傍を離れたりしない。そう想いを込める。その途端、また微かに光が宿った。震えていた体が動きを止める。パクパクと何度か口を動かしたけれど、それは音にはならなかった。

「ああ。ゆっくりいこうな」

だが、今日は1歩踏み出した。今までは、俺がそう言えば必ず首を横に振っていた。だが、今日は何かを告げようとしてくれていたんだ。焦る必要は無い。トラウマなんて、そう簡単に克服できる物ではない。それを、俺は知っている。

「なんで…そんなにやさしくしてくれるの?」
「言ったじゃないか」
「だって、私は、」
「好きな女の子のことを助けたいと思うことに、理由なんていらないぞ」

例えそれが、はじめは同情だったとしても。それがなかったとしても、俺はきっと、この子に恋をしていた。

「迅さんから少しは聞いてるしな」

第2次大規模侵攻後の被害者たちの遺品に、上層部の命令で"触れさせられた"ということを。拳を爪が食い込むまで握りしめてしまう。上層部に対して、こんなに憤りを覚えたのもはじめてかもしれない。

「……むらかみくん、手、痛くなっちゃうよ」

痛いのは、俺よりも相原の方だろう。広げた拳で、彼女の髪の毛を掬う。労るように撫でると、目を細められた。その顔を、もっと見たいんだ。反対側の手を伸ばして、相原の手に触れる。手袋という隔たりがあるが、それでも感じる彼女のぬくもり。この手を決して離すものか。
 同じ年の俺達が背負うには重すぎるものまで、抱え込ませて。上は、何を求めていると言うのだろうか。

「俺に出来ることはないのか」
「……え?」

相原が、あの日。俺に、もう1つの光をくれたように。俺が、相原の光になってやりたい。

「十分だよ。もう、たくさんもらってる。村上くんのおかげで、私は助かってるよ」
「……本当か?」
「……うん。ほんと」
「なら、」

これからも、相原にのし掛かる錘を軽く出来るように、傍に居させてくれ。そんな想いを込めて、自分よりも小さな体を抱きしめた。



20210702






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -