浮かべた罪が流れていく


高専に入って2年目。一般家庭の出身である私は、とても苦労した。後天的に呪力が発生した私は(※未だに原因はよく分かっていない)、「呪霊とは何ぞや?」からスタートしたし、転校生の乙骨君のように天才的な才能も持ち合わせていなかったので、同級生の何倍も努力しなければならなかった。努力しなければ、死ぬかもしれない。その恐怖心で、ひたすら頑張った。自分1人で誰にも迷惑かけずに逝けるなら、まだ良いけれど、自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だったのだ。

「ナマエ、お前、呪術師向いてないね?」

担任に失礼なことを言われようとも。その結果、今となっては準2級呪術師までなった。今となっては、その油断がいけなかったのかもしれない。

『逃げろ』

脳に結界を張るよりも先に放たれた呪言。私の意思と反して身体が勝手に動いていく。振り返った先に居るのは、大事な仲間で、恋人の棘くん。今日は2人で任務だった。2、3級相当呪霊に余裕をぶっこいていた私は、油断して後ろを取られてしまい、危うく致命傷を負う所だった。そんな私を見た棘くんが放ったのだ。

「やだ!棘くん!!」
「ツナマヨ」

掠れた声で、大丈夫だと言う彼。本来の実力ならば、この程度の呪霊は、彼1人でも討伐できた。完全に私が足を引っ張ってしまったのだ。棘くんは、背中に10cm程の裂傷を負っている。私のせいで、負った傷だ。よく子供が怪我をして泣いたとき、親が変わってあげられるものなら変わってあげたいと言うけれど、今の私はそんな気持ちだ。大事な人が苦しむ姿は見たくない。何より、これは私が受けるはずだったものだ。

「棘くん!」
「ゲホゲホっ、じゃげ」
「ごめんね、わたしのせいだ!わたしのせいでっ」
「おがが!!おがが!!」

何をぼーっとしていたんだって怒ってくれたら良いのに。任務中に気を抜くなんてあり得ないと叱ってくれたら良いのに。私を庇ったせいで、こんな大きな傷を負ったんだと責めてくれたら良いのに。本来なら、私が負う筈の傷だったんだぞって言えば良いのに!

「だがな?」

__怪我してないか?
私よりもボロボロな状態で、私よりも重傷なのに。どうして、私の身を案じてくれるのだ。怒るわけでもなく心配そうに私を診る棘くん。自然と、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。ぎょっとした狗巻くんは、慌てて私の涙を両手で拭った。

「怪我はしてないよ、どこも痛くない…」
「じゃげ」
「良くないよ。もう話さなくて良いよ。棘くんが痛そうだから、私も痛い」

足を引っ張ってしまった。強くなれたと思ったのに、弱いままであるという現実が突きつけられた気がして、歯がゆい。家入さんのように反転術式は使えないし、医学の勉強をしてきてないので応急処置もしてあげられない。なにも、出来ない。

「……ヅナマヨ」

__ナマエに怪我がなくて良かった

「でも棘くんが怪我した。2人とも怪我しないのが1番良いのに。しかも私のせいで」
「おかか」
「私のせいだ。真希ちゃんやパンダくんだったら、こんなことにならなかった」
「こんぶ」
「分からなくない!私が、ダメダメだからっ!!」

パチン、と額に鋭い痛みが走った。ハッと顔を上げると、ニヤリと笑う棘くん。デコピンされたのに、直ぐに気がついた。普段なら抗議をするところだけど、棘くんが負った痛みに比べれば、かわいいものだ。そう思って黙っていると、

「めんたいこ」

__これで、おあいこ

なんて言われてしまう。何を言っているのだと抗議しようとしたけれど、棘くんの唇が私の唇に触れる。ごちそうさまと笑われた後、シーッとジェスチャーをされてしまえば、私からは、これ以上は何も言えない。

「ツナマヨ、めんたいこ、いくら。しゃけしゃけ。こんぶー?」

そして、その後にたくさん振ってきた具材達。普段寡黙な彼が、こんなに話すのはとても珍しい。その上、あまりにも早口で解読することが出来なかった。なんて?と問うと、再び同じように同じ順番で具材が振ってくる。適当に言っているわけではなさそうだ。

「もっとゆっくり」
「ツナマヨ、めんたいこ、いくら。しゃけしゃけ。こんぶー?」

同じやり取りを何度も繰り返す。いつもは、ジェスチャーを入れてくれるのに、それが全くなく、私をジッと見つめて言うのだ。私も負けじと見つめ返すけれど、その表情が見たこともないような顔をしていた。なんだか熱帯びているような気がしたのだ。それに耐えられなくなって、結局逸らしてしまう。そんな私を面白そうに見ながら、ずっと同じ言葉を繰り返し続けるのだ。完全に楽しんでいる。

「もう、帰るよ!」
「いくら?」
「わかんなくて良い!と言うか、分かって貰おうとしていないでしょ!」
「高菜?」
「バレた?ってバレバレだよ!そうやって、私で遊ばないで!」

怪我人なので、なるべく痛くないように肩を貸してあげて、ゆっくりと歩く。高専に戻って、今日の話を真希ちゃんにしてみたけれど、結局、狗巻くんがなんて言っているかは分からなかった。



__好きな女の子を守りたい男心も分かって欲しい。だから良いんだ。気にしないで?




20210202





志津野様へ。リクエストありがとうございました。両思いとのことだったので、付き合ってからどれくらいかなという部分が悩みました。今回は、付き合いたてくらいのつもりで書かせていただきましたが、いかがでしょうか。クロスの方でも、狗巻くんが夢主を庇うシーンはあるので、今回は戦闘力があまり高くない子で書きました(クロスの夢主は割と強めなので)。気に入っていただけると嬉しいです。







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -