こうして文学を演じる


「ミョウジさんって、狗巻くんといつからの付き合いなの?」

任務帰り、何を思ったのか乙骨くんが質問してきた。

「棘とは、小学校から一緒だよ」
「ああ、だからか」
「なにが?」
「真希さんやパンダくんでも分かっていないようなことを、ミョウジさんは、すんなりと理解しているみたいだから」

その言葉に、はて?と首を傾げる。そんな場面あっただろうか。昔、棘と会話するのは大変ではないかと問われたことを思い出す。その時、私はなんて答えたっけ。

「なんか、阿吽の呼吸というか。言葉を交わしてなくても理解出来てるときもあるよね」

__その質問、英語を話せる人に、英語を話す友人の言葉が理解出来るの?って聞いてるのと同じだよ。

「んー……。それは、棘だからだと思うよ」

私の人格形成に少なからず影響を与えたのは、幼馴染の狗巻棘だ。呪言師の末裔として生まれた彼と、呪術師としては名門の家系に生まれた私は、親同士が仲が良く、よく一緒に遊んでいた。棘の力は強大で、彼は他人を傷つけないために語彙を絞るようになっていった。その言葉を理解するのに時間は掛からなかった。

「本当に、仲が良いよね」

小さい頃から一緒にいるからか、なんとなくお互いの考えることが分かった。なんて、言い訳かもしれない。

「愛の力ってやつかな、なんてね」

にやりと笑みを浮かべると、乙骨くんもふんわりと笑い返してくれた。







任務の報告書を提出しに職員室へと足を運んでいると、独特な語彙が聞こえてくる。先程まで話題に上がっていた人物のもので、私と乙骨くんは目を合わせた。棘も職員室に用があったのだろうか。

「つなまよー?」
「おかか!おかかおかか!!」
「たかなー?」
「お・か・か!!」
「つなつな。昆布」
「おかかあ!!!」

その後に聞こえてきた様々な声に、ぽかんと口を開けた。それは、乙骨くんも同じだった。聞き慣れた声たちが、おにぎりの具を連呼していて、その言葉を普段から巧みに操っている棘がおかか!と怒りながら言い続けている。大方、棘の言葉を真似しはじめた彼らの言っていることが、"分からない"と言っているのだろう。馬鹿なゲームをしているなと思った。そんなもの分かるわけないだろう。

「ねえ、乙骨くん。私、この中に入りたくないな」
「奇遇だね、ミョウジさん」

はあ、と盛大なため息を吐いたタイミングは同じだった。どうせ、いつもの悪ノリだろう。巻き込まれたくはないが、多分、難しい。乱雑に職員室の扉を開いた。此処は、先手を打とう。

「高菜ァ!!」

報告書を握りしめ、派手に登場してやる。横に居た乙骨くんは、いつの間にか私の後ろに隠れていた。

「こんぶぅ…」

助けて、と棘が私の元へと擦り寄ってくる。珍しい。棘はどうやらこの状況を楽しんでいないようだ。グッと親指だけを突き上げた。

「明太子!!」

とりあえず、この中で最年長の我が担任・悟の顔面に報告書を叩き付ける。全く、棘をいじめるな。という言葉を含んで。そんな私の様子を見た棘は瞳を輝かせている。どうしよう、可愛すぎて鼻血が出そうだ。なんとかグッと堪えて、鼻を押さえた。そんな私の様子を見ていた真希とパンダは黙っておらず、次々におにぎりの具を発する。プチン、と血管が切れる音がした。お前らの言うことは分かるわけないだろう。だって、意味を込めて発していないんだからな!

「エビマヨ??(しばくよ??)」

普段は棘が使わないおにぎりの具を投げつけてみせる。その言葉の意味を理解出来たのは、きっと、棘だけだろう。案の定、周りに居た3人は閉口する。そして、私の腕を掴んでいた棘だけがクスクスと笑っていた。

「うーめーぼーしー!!」

怒気を含んで、そう言ってやれば、笑って居た棘に咎められる。この言葉は癪に障ったらしい、というか地雷だ。"梅"は"埋め"という意に通じるので、棘のトラウマに触れてしまったかもしれない。

「ツナマヨ」
「おかか!」

ごめんね、と頭を下げれば、もう言うなと怒られる。ツナマヨ、ツナマヨ、と何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、棘の顔色を窺った。そして、ようやく許してくれたのか「しゃけ」と言って、私の頭を撫でてくれる。そんな私たちの様子を見ていた、悪ガキたち(※乙骨くん以外)がキラキラとした視線を私に向けた。

「え、なんで会話が成立してるんだ?」
「凄いを通り超して、お前ら気持ち悪いな」
「いやあー、お熱いね、お2人さん」
「あんたらは、意味を込めて言ってないからでしょ。ちゃんと意味を込めて、その意味を理解して言ったら棘は理解してくれるよ」

肩を落として説明してやる。とりあえず、ニヤニヤしている悟(馬鹿)に肘鉄を食らわした。生憎、私は機嫌が良くない。任務で疲れ切った身体を今すぐ休めたいのだ。棘が助けてと言わなかったらスルーするつもりだったし。

「それにミョウジさんは、言葉を発しなくても、狗巻くんのこと分かるときがあるって言ってたよ」

乙骨くんは、助け船のつもりでそう言ってくれたのかもしれないが、その言葉はこの馬鹿たちの興味を掻き立てるには十分だ。それを証拠に、先程まで困っていた棘も興味深そうに此方を見てくるではないか。

「……ツナマヨ?(本当に?)」
「しゃけ(本当だよ)」
「おかか?(声にださなくても?)」
「しゃけしゃけしゃけ。いくら?(声に出してくれた方が分かりやすいだけだよ。もう離して?)」
「おかかー!!」

嫌だ、じゃないんだよ。こっちは帰って寝たいんだけど!乙骨くんを一瞥すると、意図を汲み取ってくれたのか、ごめんねと両手を合わせられる。謝って欲しいんじゃなくて、こっちは助けて欲しいのだけど、と思った。

「ツナマヨ、高菜(好きって言ってくれたら、離す)」

私の腕を掴んでいる棘の手の上に、掴まれていない方の手を重ねた。今日の棘は、疲れているのか甘えたがりのようだ。

「ツナマヨ」

悪戯っ子の笑みを浮かべた後、その手を引き寄せる。見せつけてやるかのように、口づけをしてやると、ヒューヒューと喝采が上がった。そんな彼らを無視して、棘の腕を引いて、その場を後にする。真っ赤な顔をした棘を抱きしめて、幸せな夢の中に落ちるまで、後__。


"愛してる"



20210118





あかね様へ。この度はリクエストありがとうございました。どうしても乙骨くんを出したくなってしまったので、時系列は彼らが1年生の頃だと思っていただければ幸いです。なので、担任も五条さんですね。リクエストが来た当初から、これは書くのが楽しそうだなと思いまして、想像通り楽しく書かせていただきました。2年生好きの私には堪らないリクエスト内容をありがとうございます。気に入っていただければ幸いです。

クロスは、原作に追いつきそうになっているので、更新スピードが落ちておりますが、そちらも頑張りますね。では、この度は本当にありがとうございました!







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