この魔法は愛しい君にだけ


(※東北訛りは想像で書いてます。違和感あれば、やさしく教えてください)


__お姫様は、王子様からの愛のキスで深い眠りから目覚めました。


昔読んだ小説に、そんなお話があった気がする。小さい頃は王子様という存在に憧れていたし、身近に王子様のような風貌をしたキレイな男の子がいたから、余計に憧れも強くなった。だけど、彼は美しいだとかキレイだとか言うと物凄く怒るし、性格も王子様とはかけ離れた、ちょっぴりガサツな一面もあったりして、自然とそれは私の思い描いていた空想の世界からかけ離れていく。

「エペル、帰ってくるんだ…」

エペルと言う名の彼は、現在全寮制のナイトレイブンカレッジという魔法士育成の学校に通っている。

__強ぐなっで、ナマエを守っから!

この村では、同年代の子供が、私たちはお互いしかいなかったから。自然と一緒に居る時間は長かった。その度に、申し訳なくて居たたまれない気持ちになった。エペルは普通の人と同じかそれ以上に身体が丈夫で健康体だけれど、私は昔から病弱で、外に出た事なんて数えるほどしかない。エペルがやりたいことを、私が邪魔しているような気がして、嫌だった。だから、彼がナイトレイブンカレッジに行くと聞いたとき、本当はさみしかったけれど、それも言えなかった。







エペルが帰省してくる日。私は、高熱を出していた。本当は、おかえりって笑顔で迎えてあげたいのに、それができない。どうして、いつもこうなんだろう。自然と目尻から流れ落ちる雫を、そっと何かに拭われる。

「………?」
「泣かないで、ナマエ」

懐かしい声だった。そっと手を伸ばすと、ひんやりとした何かに包み込まれる。それは、とても冷たく感じるのに、私に安心感を与えてくれた。

「…だれ、……エペル?」

ぼんやりとした意識の中で捉えた顔は、私の大好きな人の顔で。その眉はしかめられて、悲しそうに顔を歪めていた。エペルらしくない衣類に身を包んで、労るように私の額を撫でる。その仕草も、その風貌も、私が知っている人とはかけ離れていた。

「………どうしたの、その格好」
「もう嫌だ、僕、このまま此処に居たい」
「え、本当にどうしたの。その話し方も」
「……っ…」

ポロポロと頬を伝って零れ落ちる雫は、間違いなくエペルのものだ。その容貌は、私が昔憧れた王子様そのものなのに。私は、とても苦しくなる。こんなことを望んでいたわけじゃないし、誰がエペルにこんな知恵を教えたんだろう。

「…私のために、王子様を演じてくれなくて良いよ」
「演じてない。ナマエが側に居てくれたら、僕は、学校での僕も好きになれるかもしれないけれど…僕が、望んでしているわけじゃない」

学校では、王子様のようなエペルでいるのだろうか。大雑把で不器用な彼が?王子様とかけ離れた彼が?なんとも想像できないし、無理してそれを強いられているのだとしたら、許せない。

「…此処、学校じゃないよ?」
「そうだね」
「どんなエペルでも、私は…好きだけど…な」
「なっ、!」

近寄っていた身体が、触れていた手が、バッと離れていく。それでも、視界にエペルを捉えると耳まで真っ赤にして、唇をわなわなと震わせていた。

「そっだげなこと!なんで、お前が先に言うべ!!?」
「………ごめん?」

こてり、と首を傾げると、エペルは拳をぷるぷると振るわせていた。いつもの調子に戻った彼を見て、クスクスと笑いが零れる。それを見たエペルは、更に気分を害したようだ。

「共学なら良がった…」
「共学でも、無理だよ。私こんな身体だし…」
「関係ねえべ!」

もし、ナイトレイブンカレッジが共学だとしても、こんな身体では、まともに授業だって受けれないだろう。人付き合いだって、得意ではないから、友人が出来るかも怪しい。

「ナマエのためと思ったら、寮長の命令でも悪くないのに……」
「エペル?」
「……ナマエのことを守れるくらい強い男になりたくて、あそこに行ったのに…何してるのかわかんねえべ…」

膝小僧を抱え込んで、其処に顔を埋めるエペル。彼が私に弱いところを曝け出すのは、とても珍しい。

「そんなに辛いなら、戻ってくれば良いのに」
「それは出来ね」
「………わたしのせい?」
「ちげっ………ごめん、でも、本当にちげえから。………僕は、僕の意思でやってる」
「そっか…。1度決めたら貫くエペルだもんね…そんなに辛くても頑張るんだよね」

こくり、と頷いたエペル。女の子みたいな格好も、男らしくない所作も嫌いだと言っていた彼が、それを受け入れる程の理由が、どれ程大切なのかは分からない。もしかしたら、恐ろしい人…それこそ、先程言っていた寮長さんに脅されているのかもしれない。だけど、私は、彼が誰よりも頑張り屋さんな事を知っている。きっと、いつか、そう言う人たちにも勝つのだ。それくらい強い人になるんだと思う。

「私ね…エペルがいなくて、さみしかったよ」
「……!」
「だけどね、私もエペルの横に並べるくらいのかっこいい女の子になりたいなって思ってるの」

上半身を起こそうとすれば、やさしく背中に手を添えられて、それを手伝ってくれる。君がいないと、こんなにボロボロな私だけど、それでも、いつまでも弱いままの女の子なんて嫌だから。机の引き出しを開いて、エペルに手渡した。

「…これ、魔法医学の本??」

その言葉に、ゆっくりと頷いた。

__お姫様は、王子様からの愛のキスで深い眠りから目覚めました。

悪い魔女に捕まったせいで、呪われてしまったお姫様。だけど、私は、そんなお姫様みたいにはなりたくない。ずっと、密かに王子様が来てくれるのを待つだけのお姫様になんて、なりたくないんだ。

「わんぱくなエペルは、いつもよく怪我をしてくるから。エペルの怪我を治せる人になりたいの」
「……ナマエ、」
「エペルは、そんなのいらないって言うかもしれないけれど…いつまでも弱いままの女の子なんて、嫌なんだ」

フッと頬をほころばせて、落としていた視線を上に上げた。そうすれば、エペルの美しい瞳の中に、しっかりと前を向いた私の顔が映り込む。

「私も、頑張るから。だから、一緒に頑張ろう?」
「……いつの間に、そんな強くなったの」

逞しい腕が背中に回されて、引き寄せられる。汗ばんだ身体が密着するのが申し訳なくて抵抗したけれど、エペルは離してくれなかった。私の耳元にエペルの唇が近づいてきて、そして優しく触れて、やわらかい音が紡がれる。

「大好きだよ、ナマエ」
「私もエペルが大好き」

胸元に顔を埋めると、甘い林檎の香りが、私を守る結界のように感じられた。きっと、私たちは、もっと強くなれるよね。







エペルがNRCに戻っていった後、私は更に読書に励むようになった。どんどん強く、逞しくなっていく彼に見合う女性になりたいと思ったからだ。中でも手に取ることが増えたのは医学書だ。相変わらずわんぱくな彼が、どれだけ大きな怪我をしても治せるようになりたかった。それと、病弱な自分が1人きりでも対処出来るようにと思ったのもある。

「エペルー!」
「ナマエ、走ると危なねえべ」
「大丈夫…!今日は、とっても調子が良いの…!」

再び訪れた休暇。久しぶりに会ったエペルの表情は、前よりも逞しくなっている気がする。否、何か吹っ切れているようにも見えた。

「学校は上手く行ってるんだ?テレビでダンスの発表してるの見たよ!」

普段のエペルとは正反対の雰囲気を纏っていた彼は、昔読んだ小説に出てきた王子様に似ていた気がする。

「うん。強さにも色々な種類があるって分かったから」

向こうでの生活が長いせいか、別人のように見える彼の姿は少し寂しくもあった。だけど、瞳の奥に宿る闘志は昔から変わらない。私は、そっと、エペルの腕に自分の腕を絡ませた。

「普通に話して良いよ?」
「……昔、ナマエは、こう言う王子みたいなんが好き言っでだ癖に」
「それはそれ。私にとっては、どんなエペルもかっこいいから」

あまり変わらない背丈。後数年もしたら、見上げないといけなくなるのだろうか。ふんわりと私の頭を撫でる手も、更にごつくなっていくのだろう。

「ズリー」
「なんでよ!あ、そうだ。今日はコレを読んでたの」

先程まで読んでいた分厚い医学書を差し出す。それを数分、ペラペラと眺めたエペルは、

「字が多すぎで、クラクラするべ…」
「えー、面白いのに!」

目を回しながらそう言うので、私は唇を尖らせた。相変わらず座学は嫌いなようである。

「そんなので、学校大丈夫?」
「……うるせ」

それでも、嫌いなことでも挑戦する姿は、いつだって格好良い。

「ねえねえ、ちゅーしても良い?」

こてり、と首を傾げてそう言えば、耳まで真っ赤にさせたエペルの顔があった。

「な!な、な、なんてこと言ってんだ!?そっだげなこと、女が言うもんじゃねえべ!!」
「……久しぶりに会ったんだよ。私のこと嫌いなの?」
「だ、誰もそんなこと言ってないだろ!」
「じゃあ、いいじゃん…」
「ホント、何処でそっだげなこと覚えてくるんだべ」

深いため息を吐かれた後、熱帯びた視線が私の方に向けられる。風がそっと吹いてきて、周りに生い茂る草花を揺らした。小さい頃から大好きな男の子。たくさんの本を読んできたけど、憧れたシチュエーション。思いが通じた今。あまり会うことが出来ない日々は、私の欲を掻き立たせるには充分だった。

「ナマエは、いつも唐突すぎんべ」
「だって、今日会ったらしばらく会えないんだもん」

男子校だから、誰かに盗られちゃうかもしれないっていう不安は少ない。けれど、エペルのことが大好きだから、もっと触れたいし、もっと深く知りたいと思う。そんな風に思うのはおかしいのだろうか。不安げに揺れる瞳を覗き込む。その中に写る私は、どこか哀愁があった。

「……だめ?」
「お前…、」

エペルは何かを紡ごうとした言葉を切って、私の頬に触れた。熱くなった手先が、優しく私の頬を撫でた後、顎に降りてきて顔を上げられる。美しい顔が近づいてきて、私は慌てて瞼を降ろした。その途端、柔らかい唇がちゅっと甘い音を立てて触れる。直ぐに離れていったそれの感傷に浸る暇もなく、再び混じった視線にお互いが顔を赤くした。それは、少し先に生える林檎と同じくらいに。

「ねえ、林檎の収穫行こう!」

恥ずかしさを隠すように、そう告げて、私は駆けだした。

「は!?……だから、ナマエ!走ると危なねえべって、なんべん言わすんさ!」

治癒の魔法は、まだ使えない。それでも、少しずつ向上してきた体力のおかげで、身体を壊す頻度は減ったんだよ。それを見せつけるように野原を駆けだした。いつか身につけるユニーク魔法は、君のために存在するようなものになりますように。


20210129






愛等様へ。この度はリクエストありがとうございました。リクエストはTwitterの方で書かせていただいたエペル君の続きのお話ということでしたので、そちらを加筆修正+αの短編として書かせていただきました!お話の上半は呼んだことある内容だったと思います。気に入っていただければ嬉しいです。Twitterの方でも仲良くしてくださりありがとうございます。好きなジャンルが被っているのが多いので、愛等さんが書かれている作品はどれも楽しみにさせていただいてます。愛等さんのサイトにも、また遊びに行かせていただきますね。これからも仲良くしていただけると嬉しいです!では、また。






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