眩しい光が咲くところ


自分がまさか年下の男の子に惹かれるとは思ってもみなかった。定食屋を営む両親の元に生まれた私は、お店の看板娘として日々の生活を楽しく過ごしていた。そんな私たちのお店にやってきた1人の男の子が、後に私の恋人になる時透無一郎くん。私よりも3歳年下の彼は、とても茫洋としていて目が離せない。お兄さんがいたという彼は、甘えん坊で、母性本能を擽られた。だけど、時折寂しそうな憂いた表情を見せて、その瞳の奥に隠された"何か"が私を不安にさせるのだ。

「ナマエ?どうかした?」
「ううん。無一郎くんは、今日もお仕事?」
「うん、この後行ってくるよ」
「そうなんだ」

ちらりと見える刀を一瞥する。本来なら、それは許されないはずなのに。警備の仕事をしているという彼は、許されているのだろうか。

「怪我、しないでね」

その不安は、いつも拭えなかった。

「ありがとう」

だって、無一郎くんは私に何か隠し事をしているから。







その夜のことだった。遠くから他人の悲鳴が聞こえてきて飛び起きた。何の騒ぎだろうか?と布団から出る。両親は眠っているようで、2人を起さないように外の様子を窺った。

「っ!」

鼻を掠めた血の臭い。途端に気分が悪くなって口元を抑える。目を凝らして外を見ると、人のようで人ではない容貌をした何かが動いていた。

「ひっ…」

悲鳴が漏れる。それに敏感に反応した何かと目があった。その目は、2つではなく、4つあった。ガタガタと物音を立てたところで、ハッとなる。このまま家に隠れたら、両親を巻き込んでしまうと思った。玄関の戸口を開いて、きっちり閉めた後、駆け出す。恐怖が頭を支配した。走って、走って、走り続けて。とうとう転んでしまう。

「……ぁ、」

もう悲鳴は音にならなくて目を瞑った。どうせ死ぬなら一思いに、と思ったところで、フウゥゥゥと風が吹き、私の身体をやさしく包み込んでくれるような感覚がした。

「霞の呼吸、肆ノ型 移流斬り」
「ぎぃぎゃあああああああああ」

化け物の悲鳴が聞こえてくる。そして、その後、大好きな声が私の名を呼んだ。恐る恐る目を見開けると、血だらけになった無一郎くんが立っていた。

「無一郎くん!血が…」
「これ、鬼の返り血だよ」
「鬼?」
「……うん。ごめんね、ナマエ」

悲しそうに眉を下げる無一郎くん。彼が何に対して謝っているのか、全く分からなかった。

「?どうして謝るの?おかげで助かったよ」
「ごめんね、ナマエ。もう一緒にいられない」
「な、に言ってるの?」

私の横を通り過ぎようとする無一郎くんの腕を掴んだ。今まで何度か手を繋いだこともあるけれど、腕がこんなにがっちりしていることに驚く。これでは、無一郎くんが思い切り振り払えば、簡単に逃げられてしまう。そう思った私は、そんなに背丈の変わらない無一郎君の身体に縋り付くように抱きついた。

「!?ナマエ、着物が汚れるよ」
「どうでもいい!!そんなこと今はどうでも良いよ!!」

微動だにしない身体。やろうと思えば、突き飛ばして逃げることもできるだろうに、無一郎くんは、それをしなかった。

「ねえ、ちゃんと話そう?私、無一郎くんの事が好きだから、別れるなんて嫌だよ」
「ナマエ…」

何かを抱え込んでいることは知っていた。だけど、無理矢理聞きたいとは思えなくて、無一郎くんが言ってくれるのを待っていたんだよ。そんな思いを込める。

「こんな僕を見て、怖くないの」
「怖くなんかないよ。だって、無一郎くんだよ」
「俺、嘘を吐いていたのに?」
「ええ?嘘って何の?」
「僕の仕事は、今、ナマエを襲った鬼と呼ばれる存在を狩ることなんだ。警備じゃない」
「……?警備でしょ。何も嘘吐いてないじゃない」

さらりとした黒髪を撫でる。激しく動いたというのに、絡まったりしない美しい黒髪。淡い緑色に染まった毛先が、その美しさを際立たせた。

「鬼から人を守るために、警備してるんでしょ?」

物は言い様だ。だけど、私に嘘を吐いていたということが後ろめたく感じているのならば、それを、嘘だと思わなければ良い。

「鬼は、元は人なんだよ」

震える声音で続いた言葉。その事実が、何よりも彼を苦しめているということが、一目瞭然だった。

「そっか。それでも、私は、無一郎くんのことを嫌いになんてならないよ」

胸元の着物が湿っていくのが分かる。でも、それは気づいていないフリをしてあげることにした。

「……ナマエは強いね」
「ええ?」
「ナマエを見ていると、母さんのことを思い出すんだ」

ぽつりぽつりと零れる言葉から、無一郎くんの辛い過去が知らされていく。想像を絶するその過去に、自分の不甲斐なさを呪った。だけど、過去を変えることは出来ない。今、私は彼に何をしてあげられるだろうかと思案して、抱きしめる腕の力を少しだけ強めた。

「無一郎くん。私が側にいるよ」
「ナマエ…」
「大丈夫。いなくなったりしないよ」

よしよし、と背中を撫でる。

「ナマエのこと、絶対守るから」
「うん。ありがとう」

これからも無一郎くんは、茨の道を歩んでいくのだろう。彼の闇を知った今、抱いていた不安は消えていた。私は、何の才も持たないし、刀だって扱うことはできない。だけど、闇夜を歩く無一郎くんを照らす月のような存在になりたいと思った。無一郎くんが、苦しんでいる時、泣いているときに、やさしく照らせるような。そんな想いを乗せながら、私たちは暗闇の中を抱き合い、涙を流した。



20210116




まい様へ。この度はリクエストありがとうございました。「ラララ存在証明」を楽しんでいただいたようで、そちらもありがとうございます。今回のリクエストで視点を夢主にするか無一郎にするかで心底悩んだのですが、夢主にさせていただきました。母のような優しさに無一郎が惚れたということで、夢主は芯の通った女性をイメージして書かせていただきましたが、いかがでしょうか?気に入っていただけたら嬉しいです。私も、無一郎が大好きなので、今回のリクエストは楽しく書かせていただきました!

また、私の方の体調も気にかけてくださりありがとうございます!未知なるウィルスが蔓延する中でありますが、まい様も、どうぞお身体にご自愛くださいませ。kmtは、今後は筆を置く予定のジャンルになりますが、(ネタが浮かべば番外編や短編を書くかもしれません)それでも宜しければ、また遊びにいらしてくださいね。この度は、本当にありがとうございました!











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