愛かの弁当


恋人である棘くんに手料理が食べてみたいとおねだりされたのは、先週のことだった。昔からお菓子作りが趣味であったけれど、料理となると話は別で、

「2週間の猶予をください!!」

と叫んだのは記憶に新しい。おねだりされた日に本屋に行って、[美味しいお弁当の作り方]、[恋人の胃袋を掴むお弁当]などと書かれた料理本を一頻り買い占めて、その夜から特訓がはじまった。お菓子作りが得意=料理上手と思う人間が多いこの世の中の認識を、誰か覆してくれないかと恨めしく思う。それでも、引き受けたからには、やっぱり喜んで貰いたいし、それなりの物は作りたい。そして、今日この日。ようやく納得できるものが作れたので、棘くんに連絡してお昼を一緒に食べることになったのである。

「と、棘君!おまたせしました!」
「しゃけ!!」

迎えた昼休み。授業が終った途端に彼の名を呼び、机を合わせる。自分の分と棘君の分のお弁当箱を取り出して、片方を彼に差し出した。

「気に入って貰えたら嬉しいな…」

自信なさげに紡がれた言葉に、大丈夫だと言わんばかりにしゃけしゃけと笑う棘君。その笑顔だけで、私はご飯3杯はいけそうだ。包みを広げて、お弁当箱の蓋をぱかりと開けた棘君は、嬉しそうに顔を綻ばせる。露わになった口元の口角は上がっていた。

「おにぎり弁当だよ!」

1段目には、棘くんの好きなツナマヨを中心としたおにぎりを詰め込んだ。2段目は、おかずだ。ハンバーグや唐揚げ、卵焼きと言ったお弁当には定番の具材が並んでいる。

「いくらー」

おいしそうだとはしゃぐ棘くんのその姿は、童心そのものだ。可愛いな、なんて思っていると、棘君が私に箸を差し出す。何がしたいのだろうか?と不思議に思いながら、手渡された箸を握りしめると、それを見た棘くんはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。

「棘君?」
「……高菜!」

ぱかん、と口を開けたままの状態で私を見つめる棘くん。語彙を発さなくても何をして欲しいかは明白であった。

「えー…なんでも良い?」
「しゃけ」
「しかたないなあ」
「しゃ、け!」

早くしろと急かされる。この状態を、もし母親に見られたら、迷い箸はお行儀が悪いと言われそうだ。どれが1番良く出来たとかもないので、ここはお弁当の具で人気1のものにしてやろう。卵焼きを箸でつまんで、あーんと棘君の口の中に運んでやる。

「美味しい?」
「しゃけー」

モグモグとゆっくり咀嚼した棘くんは、幸せそうな顔をしていた。大した物ではないのに、ここまで喜んで貰えるのなら本望である。頑張って良かったなと人知れず思っていると、今度は棘君が卵焼きを箸でつまんで、私の目の前に持ってきた。

「高菜!」

あ、これはお返しをしてくれているんだな。なんだか気恥ずかしいけれど、拒否するのは惜しくて、開口した。

「しゃけー?」
「ふふ、うん。私にしては上出来かな?」

自画自賛するのもどうかと思ったが、頑張ったのは事実である。なので、誇らしげに微笑んで見せた。それから、なぜか食べさせ合いが続く。

「ちょ、待って!まだ飲み込んでないよー」
「おかかー」
「遅くない!ちゃんと噛んで食べるのは大事ですぅー」

容赦ないスピードで運ばれてくる具材を、上手く躱す。不服そうな顔をしながらも、それ以上やってこない棘くん。

「ミョウジ。ツナマヨツナマヨ」

__ありがとう。世界一美味しい

私の目の前で、人差し指だけを立てて誇らしげな顔をする棘くん。

「それは褒めすぎだよー」
「おかかおかか!ツナマヨ!!」

いつも楽しいけれど、いつも以上に楽しい昼食タイムだった。











(なあ!真希。あいつら、俺達がいることに気づいてないのか?)
(私に言うなよ。アイツらのアレは今に始まったことじゃねーだろ)
(本当に仲良いね…)
(羨ましいのか憂太?)
(いや…。ただ、あの2人にはこれからも仲良しでいてほしいなと思うよ)
((お人好しが))



20210110




ゆう様へ。この度はリクエストありがとうございました。手作りお弁当で、無意識にイチャラブということだったのですが、ちゃんとイチャイチャが書けているでしょうかと不安になってます。傍から見ている残りの同級生達3人は、完璧に蚊帳の外にさせていただきました。気に入っていただけたら幸いです。









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