脚光など浴びなくても


(※エセ関西弁注意。やさしい目で読んでいただけたら幸いです)

きっかけは、何だったか__。
そんなことは覚えていない。気がつけば目で追うようになっていた。その人の言動に一喜一憂して、自分1人が独占したいと思うようになってしまっていた。その感情の名に気がついたとき、誰にも悟られないように、密かに大事にしようと決めた。

中学の体育教師でバレー部の顧問をしている父親の影響で、バレーボールが好きだった。好きだったけれど、残念ながらバレーの才能は持ち合わせていない。運動音痴な母親に似たせいで、運動神経は皆無。それでも、中学ではバレー部に所属してベンチを温めてた。それだけでなく、勿論応援も頑張った。高校に上がると、マネージャーをやろうと決めていたので、バレー部が強豪の稲荷崎高校に進学した。

「ミョウジ−、俺のタオル知らん?」
「コレでしょ」
「さっすがやな!」

入部したての頃は、男狙い?と嫌味を言われたこともある。その度に、純粋にバレーが好きなのだと言っていた。それを証拠に、女子バレー部の手伝いだってしている日もある。マネージャーの業務は、想像していたよりも過酷で辛かったけれど、本当にバレーが好きだったから頑張って来れた。2年に上がった頃には、嫌味も言われなくなった。

「いつも、ありがとうな」

お礼を言われたくてやっているわけではないけれど、そう言われて悪い気はしない。そして、何よりも、みんなが頑張る姿を見るのが好きだった。









我が稲荷崎高校男子バレーボール部は、良い意味でも悪い意味でも目立つ。強豪であることはもちろんなのだけど、

「なんやて!?もっぺん言うてみ!」
「下手くそに下手くそ言うて、何が悪いんですかあ!!?」

この双子のせいで、更に目立つのだ。高校生No.1セッターと名高い宮侑。男前な容貌と、気さくな性格からアイドルのような人気を確立している。そして、その双子である治。それだけで、爆発的な人気を誇る彼らの周りは、いつも騒がしい。

「あらら、またやってるよ」
「誰か北さん呼んできてー」
「いや、ミョウジが止めろや」

呆れた様子で私と銀島がその様子を見守る。そんな私たちを一瞥した角名は、唐突にスマホを取りだして、喧嘩している双子の写真をスマホに収めている。

「私に止められるわけないやん」
「いやいや、お前が止めろ言うたら、片っぽは止めるやん」
「え?どっちが?」

私のその言葉に、銀島は呆れたようにため息を吐いた。この双子の喧嘩を私は止めたことない。この場を収められるのは、3年の尾白先輩かキャプテンの北さん以外にいないと思う。そう告げると、今度は写真を撮っていた角名まで、ため息を吐いている。

「本当に、どっちもどっちだよね」
「なんそれ!?どう言う意味!!?」
「侑ー。ミョウジが、大声が頭に響いてしんどい言いよるで?」
「言ってないんやけど!!?」
「なんやて!!?」

てっきり火花がこっちに飛んでくるかと思いきや、銀島のその言葉に侑は静まる。侑が静まると、治も静まる。え、なにこれ。









私は、誰にも、この想いを悟られていない。そう思っていたはずなのに。

「ミョウジは、いつになったら侑に告白するの?」

飄々としたこの男から紡がれた言葉に目を見開く。

「は?…え!?」

私にその問いを投げかけてきた角名は、こてり、と首を傾げた。全く可愛くはない。

「あ、やっぱりそうなんだ?良かった」
「は?…え??」

呆然と立ち尽くす私を余所に、良いことを聞いたと言わんばかりの角名は、その私の横を通り過ぎようとする。咄嗟に腕を掴んで、こっちへ来い!と体育館の入り口付近まで連れてくる。

「侑には、言わんといてな!!」
「えー……」
「この通りやから!!」
「えー……」

土下座をして頼み込んでいるこの光景は、傍から見ればシュールである。

「じゃあ、教えて?何で告白しないの?」

それを知ってどうするのだと思うけど、ここで教えなければ何をされるか分かった者ではない。相手は角名である。失礼だとは思うけれど、角名は侑に次いで厄介だ。まだ治にバレる方がマシである。

「侑の邪魔になりたくないねん。あと、部の空気を変にさせたない」
「……ふーん」
「聞いといてなんやのその態度!」
「別に?じゃあ、何で治じゃなくて侑なの?」
「何で質問増やすん!!?信じられへん!!」
「侑ー!ミョウジが「やめんかい!この阿呆!!」」

急に声を張り上げた角名の口を、背伸びして両手で塞ぐ。バレー部には碌な奴がおらんなと思った。そんな碌でもない奴に惚れてるのは私だけど!!

「…そんなん言われても、気づいたときにはそうやったから、何がきっかけとか分からへん」

恥ずかしくて、ボソボソとそう紡いだ。その声音はどんどん小さくなっていって、最後の方は多分角名には聞こえてないだろう。声に出してしまえば、その想いの熱は更に燃えていく。きっと真っ赤になって居るであろう顔を隠すのに必死だった。

「ミョウジって…可愛いとこあるんだね」

そんな私に向かって発せられた言葉は、運悪く第3者にも拾われる。

「あかーーーーん!!角名!!こいつだけは、あかん!!」

突如現れた噂の人物に、目を見開く。侑は焦ったような顔で角名の腕を掴んで、突き飛ばした。その後、私の身体を引き寄せて閉じ込める。

「なにすんの!!?」
「うるっさい、黙っとれ!」
「はあ!!?」

もぎゃもぎゃーと叫ぶ侑。そんな私たちの様子を冷静にスマホに収める角名。もうカオスだと頭を抱えた。ええから離してと言ってもビクともしなかったこの男が、背後から迫る別の人物によって沈められる。

「ミョウジ喧しい!大人しくせい!」
「喧しいのは、お前やろ侑」

氷の目をした我らがキャプテンが、此方を睨み付けていた。

「お前ら、片付けもせんと何しとるんや」

私の恋が実るまでの道のりは、きっと、まだまだ険しい。





(角名は、ミョウジが好きなんか?)
(そんなわけないじゃん…誰があんなやつ…)
(あんなやつってなんや!可愛えやろ!おっぱいでかいし!)
(それ言って、ぶっ飛ばされたら良いのに…)
(はあ!!??)





20210111




葵様へ。この度はリクエストありがとうございました。両片思いのお話ということで、最終的にくっつけるかどうかで悩んだのですが、今回はくっつけない形で締めさせていただきました。稲荷崎のお話を書こうとすると、北さん以外の面子は、どうしてもギャグの方向へと走らせてしまう傾向があり苦労します…。いつか、侑でもお話を書いてみたいなと画策してるのですが、それは、まだまだ先になりそうです。HQはリクエストが来るか不安だったのですが(取り扱いはじめたのが最近なので)、葵様からリクエストいただいたときは、とても嬉しかったです。本当にありがとうございました。気に入っていただけると幸いです。










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