色づく名前



「勝ち負けも大事ですが、みんなが楽しいのが1番だと思うので」

淡々と告げて、しまった。と思った。でも止まらなかった。
 来月末に、クラスマッチがある。私は今年、体育委員になったから、こういうイベントでは仕切らなければいけなかった。バランスや、私が知る上でのクラスメイトたちの人間関係をふまえてチームを組んだつもりだった。それなのに。

__俺、あいつ苦手だから、別のチームにしてよ。

一部の男子がワガママばかり言う。この人を動かしたら、この人と去年揉めた人が同じチームになるし…とか。いう通りに動かすと、AチームとBチームの力関係に差があり過ぎてしまう。片方がめちゃくちゃ強くて、片方がめちゃくちゃ弱くなる。そうなると、みんなが楽しめない。そう説明したのに、納得してくれない。

「…っ」

全員が納得するチームは組めない。だから、誰かは我慢しないといけない。私が入る方には、私が苦手に思ってる人がたくさんいる。組んだのが私だから、ある程度は私が我慢すれば良いと思ったから。なのに、こんな風に言われるのは予想していない。良かれと思って組んだのに、こんなにも批判が生まれるのが納得できない。言い方をもっと考えてほしいとか。文句あるならアンタが組めばいいでしょとか。言いたいことは山ほどある。それをなんとか飲み込んだ。
 爪が食い込んでしまうくらいに拳を握る。唇をかみしめて、耐えた。これ以上は言ってはいけない。聞きたくもない。一生懸命頑張ったことが、受け入れられないってこんなに悔しいのか。

「えーーーっ、俺は好きな子と同じチームだから変わりたくないべ」

おどけた口調が、やさしく降り注いだ。はっとなって顔を上げると、にかっと笑った菅原がいる。

「な!お前!ずるいぞ」
「いやあ、運が良かったよなー!日頃の行いが良いからか?」
「なんだよ」
「どーどー!落ち着けって!決まってるもんは仕方ないじゃん!カルシウム取れって」
「自分が良いから変えたくないって、自己中すぎんだろ」
「ブーメランだぞー?自分が嫌だから変えたいって言ってるお前はどうなのよ?」

ケラケラ笑いながら言う菅原だけど、なんだかちょっぴり怒っているように見えた。少しだけ眼光を鋭くして、私に文句を言っていた男子生徒を一瞥した後、視線を斜め後ろに向ける。一瞬私を見たのかと思ってビクッとなるが、その視線の先は少しズレてて。そして、なにやらパクパクと口を動かしていた。なんだろう?と首を傾げた途端、後ろから澤村が、

「……へえ、スガ?この間好きな子いないとか言ってた癖に、本当はいたんだな?」

菅原を揶揄い始めた。なんだかわざと声を大きくしている気がする。わざと、注目を浴びさせてるような。

「そーそー!俺って運が良いよねー!!」

その途端、様子を見守っていたクラスメイトたちが、きゃあきゃあと騒ぎ立てる。空気が変わった。

「教えるわけないだろー!!」
「なんだよ!教えろよー」

もしかして、助けてくれたのだろうか。そう思うと頬が熱くなっていく。あまりにもスマートに。誰も不快にさせることなく。この空気を、自分が犠牲になることによって変えてくれたのだ。菅原のことをまっすぐ見つめる。彼は耳まで真っ赤になっていた。私は、パクパクと口で「ありがとう」と音にせずに伝える。菅原は気にするなと言うような感じで、微笑んでくれた。そして、

「そうだな。告白が成功したら教えてやるから、それまで見守っててくれよ」

クラスメイトたちが、頑張れ菅原!!と囃し立てる。しばらくすると、みんなは興味をなくしたのか、各々が違う話題へと夢中になっていく。隣に立っていた澤村が、ぼそりと呟いた。

「スガ、良いやつだろ?」
「……そうだね」
「だから、よろしくな」
「へ?」

どう言う意味?と問いかけるように澤村を見つめると、澤村は人差し指を立てて、唇につけた。そして、

「それは、本人から聞いてくれ」

そう言って菅原の方へと歩いていく。

「え?」

もしかして、とよぎったことを聞く勇気は、私にはまだ無いのだった。



20220422
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