終らない歌を唄おう

とっても仲睦まじく、相合い傘をして帰った2人のことを覚えていますか。あれから13年の月日が流れました。2人が住んでいた三門市は、残酷な未来が待ち受けていました。それは、4年半前に遡ります。近界民と呼ばれるモンスターが街を攻めてきて、名前ちゃんはご両親を。秀次くんはお姉さんを亡くしてしまったようです。今、2人はどうしているんでしょうか。様子を見に、取材に行くと、断られてしまいました。なんでも、秀次くんが、ボーダーと呼ばれる町の平和を守る組織に所属しているようで、外部の取材には厳しいそうです。私たちは、密かに様子だけ見守らせていただくことになりました。

「秀次、お疲れ様」

やさしくて澄んだ透明感のある声が、我々の耳を刺激します。そちらへと視線を向けると、やわらかい笑みを浮かべた少女が、目の下に隈を浮かべた少年に声をかけていました。わかるでしょうか。あの2人が名前ちゃんと秀次くんです。

<<顔色悪いな…>>

「別に待ってなくて良いと言っただろう」
「私がそうしたかっただけだから」

時刻は23時を過ぎていました。高校生は補導される時間です。秀次くんは、ボーダー隊員という名目があるので大丈夫でしょうが、名前ちゃんは違います。それに、こんな暗闇の中、ボーダーの建物の前と言えど、女の子が立っているのには、とても危険です。そういうことを言いたかったのでしょう。伝わらなかったことに苛立ちを隠せない様子の秀次くん。小さく舌打ちを漏らします。

「秀次に、聞いて欲しいことがあって」

そう言った名前ちゃんは、穏やかな顔つきで、星空を見上げました。

「進路、決まったよ」
「そうか」

名前ちゃんは、たくさん悩んだよ。と言いました。自分は戦う事が出来ないけど、何かの形でボーダーに貢献できるのではないか、とか。傷ついた秀次を守れるように、医療系の職種に進もうかなとか。たくさん悩んだよ、と。

「私ね、音大に行こうと思う」

昔から音楽が大好きだった名前ちゃん。アイドルになりたいと、キラキラと目を輝かせていた姿が、思い出されます。

<<やっぱり、そういう道に進むんだね>>

「三門市から出ることになるから、秀次とは会う時間減っちゃうかも」
「別に俺は平気だ」
「もう!そんな隈つくってる人が言っても信用できないんだよ」
「……俺には、名前に何かを頼む資格はない」
「そう言う問題じゃないの!」

鋭い声をを張り上げた後、名前ちゃんは、やさしく秀次くんの頬に触れます。

「私ね、秀次が安心できる場所でありたいの。何もかもを忘れて、安らげるような、そんな存在になりたいの。秀次言ってくれたよね。私の歌が好きだって。だから、私は歌を極めるよ。大好きなものを極める。そうすれば、秀次が誰よりも喜んでくれるから。たくさんたくさん、安らぎの曲を作るよ」

2人は、こつんと額を合わせました。ボーダーも近界民も全て忘れて。ただの三輪秀次に戻るとき。私が必ず、傍に居るよ。ずっと。

(人間、いつどうなるかなんて分からない。だけど、私の生み出した物は決して消えない。もしも、私に何かあったとき。秀次が下を向かずにいられるように、飽きるくらいの量の音楽をつくって、あなたを包むよ。傍に居られないときも、あなたと私は、ずっと一緒だから)




20220509




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