同じ明日に会いに行こう

あれから12年の月日が流れました。明るく活発な女の子と、内気で物静かな男の子。そんな正反対コンビが、12年前の今日。おばあちゃんの元へお見舞いにいくために頑張りました。あのおつかいを皆さんは覚えているでしょうか。あの2人は、高校2年生になってました。

「けんまーー!!ナイッサー!!」

東京都体育館に響く声援。聞こえてきた名前は、あの日大きな1歩を踏み出した男の子のもの。研磨くんは、東京都の中でもバレーボールが強いとされる音駒高校に進学し、そこで正セッターを務めていました。

<<えええええええええええ!?!>>

プリンになってきている金髪の髪に、赤いユニフォームを纏う少年。その目の先に移っているのは、ボールのみ。

「けんまー!!!」
「けんまくーーんーーー」

そして、観客席から一際目立つ声援を送っている女の子と、おばあさんがいました。みなさん、おわかりでしょうか?名前ちゃんと名前ちゃんのおばあちゃんです。名前ちゃんは、幼少期に闘病生活を送っていたおばあさんを支えた看護師さんに憧れて、都内の5年課程の看護科がある高校に進学しました。
 ボールを打つ音、拾う音。キュキュッと鳴るシューズの音。数々の音が響く中、研磨くんは、ちらりと観客席の方に目を向けました。その先にいるのは、もちろん名前ちゃんです。どんなに周りの音が大きくても。いつだって、一際目立つ名前ちゃんの声を、研磨くんが見逃したことはありません。

「……だから、声、大きいって」

ぼそり、と何かを呟いた研磨くん。その声は、周りにかき消されてしまいます。でも、どこか嬉しそうに笑って居る名前ちゃん。

「だって、みんなにも聞かせてやりたいから!!!」
「名前、声援は大きければ大きいほど良いものだよ」
「だよね!!おばあちゃん!!」

きゃーきゃーと観客席で盛り上がる祖母と孫。周りの人は、若干引き気味です。研磨くんのげっそりした表情が、まさしく物語っています。







「研磨研磨ー!!こっちこっちだよー!!」

試合は勝利。この後は、烏野高校と稲荷崎高校の勝者と当たることが決まった音駒高校。次の試合相手がどちらになるのか。その見学か観客席の方へとやってきた研磨くんの元へ名前ちゃんが駆け寄ります。

「だから、名前…声が大きいって…」

まわりの部員が囃し立てるせいか、とても嫌そうな顔をする研磨くん。だけど、名前ちゃんは、そんなのお構いなしに、はしゃぎまくります。

「なんだっけ?ツーアタック?格好良かったよ!あとねあとね、あのバッてトスあげたのも、すごくてね!ボールがね!」
「……うん。わかった。わかったからストップ」
「えーーー!!まだ話足りないの!!」
「……だから、声が大きいってば」

<<なんか、完璧に名前ちゃんのペースだね…>>

「研磨はいっつもすごいなあ…」
「なにが?」
「?研磨は、いっつも格好良いよね!」
「……よく恥ずかしげも無くそういうこと言えるよね」
「ありがとう!!」
「褒めてないけど」

あの日とは全く変わらない姿に、我々からは笑みがこぼれます。名前ちゃん、研磨くん。これからも、どうか仲良く幸せに過ごして下さいね。






↓  



[オマケ:あれから更に8年]

あの取材から8年後。我々スタッフの1人が、研磨くんが、有名人となって活躍していることを発見しました。YouTuberコヅケン。今やTwitterでは、333万人ものフォロワーを有するプロゲーマーになっていました。本日、そのコヅケンから重大発表があるようです。

「研磨ー!これはじまってるの?」
「……ちょっと顔出さないで。マスク付けてって言ったでしょ」
「えー?付けても付けなくても変わらないよ!てか、ばっちりメイクしている姿を見て貰わなきゃ!」
「必要ない」
「なんでよ!」
「………」

ネコ:なになになになにー?
黒助:重大発表?え、女の声?
名無しさん:例のアレじゃね?
名無し2:はじめてのおつかいに実は出てましたってやつ?
黒助:とうとう認めるのか!?
あめ玉:きゃああああああああVv

「……すご、察しが良い人多いね」
「わああ、コメントいっぱいだあ。すごーい」

きゃあきゃあと騒ぎながら、研磨くんの腕へ擦り寄る名前ちゃん。相変わらずです。そんななまえちゃんに呆れつつも、きちんと進行していく研磨くん。さすが、もう慣れた物です。

「まあ、別に名前は出なくても良かったんだけど。幼少期に、とある番組に出させてもらって、知っている人も多いみたいだったから、」

そこで一呼吸置いた研磨くん。なまえちゃんも、その様子を察したのか口を噤みました。

「ネットで、様々な噂が流れているけど、これから言うこと以外のことに真実はないからね」

名無し:………
名無し2:………
黒助:なんだ?

急に目つきを鋭くさせて、研磨くんもといコヅケン。一瞬空気がピリッとなり、名前ちゃんの瞳が不安そうに揺れています。

「名前とは、幼稚園の頃からの友人で、高校を卒業と同時に付き合い始めた。俺が作る動画内で、恋人の存在を明かしたことがなかったのは、動画に関係がなかったから。誤解している人が多いけど、先に好きになったのは、俺の方。「えっ?わたしからじゃな」……はい名前。その話は後にして。……で、この名前は、夢だった看護師になって弱っている人を助けるために、いつも頑張ってる。みんなが思うような人じゃないからね」

どうやら、コヅケンに彼女はいるのか!?と騒いだファンたちの間で、昔の番組に出ていた名前ちゃんと研磨くんの存在を知られたようだ。その際に、名前ちゃんは誹謗中傷に近いことを受けていたということが伝えられました。

「名前は良い意味でも悪い意味でも、裏表がない人。人によっては、我儘に思われるのかもしれないけど、俺は、そんな風に思ったことは1度もないし、例え我儘だとしても、名前なら良いから。勝手な物差しで、俺達のことを判断しないで欲しい」
「いやいや!?私、我儘だよ!?いやだいやだって騒いじゃうこともあるし、休みの日に疲れてる研磨を振回したりとかもあるし、「名前、ちょっと黙ってて」……うん」
「俺はともかく、名前は一般人だから。こうやってYouTuberとして活動している人間の妻だとしても、プライベートまで踏み込んでくるのは控えて欲しい」

そう言って、ぺこりと頭を下げた研磨くん。慌てて名前ちゃんも倣うように頭を下げます。………と言うか、

あめ玉:えええええええええええええええ!!!???
黒助:えっ、つ、妻って言った?
名無し:コヅケン結婚したの?してんの?え、え
球子:えんだあああああああああああああいあああああああああああ
みけ:お、おめ、おめでとおうあわわわあああああ

『名前ちゃんと、研磨くんが……』

「今も昔も、助けられてるのは俺の方だから。根も葉もない噂で、俺の大切な人を傷つける行為は辞めてほしいし、俺はみんなのことも大切だから。そういう姿を見たくないよ。……ふふ、真面目にしすぎたね。また明日からは、いつも通りの配信をお届けするから」

あめ玉:ぎゃああああかわいいいいいいいいいい
名無し:もうカップルYouTuberとしてデビューしてくれーー!!

「それはやだ」

黒助:なああんでだああよおおおおおおお

「「ふふっ……」」

笑い顔まで、そっくりになってきたなと思いました。正反対なのに、とっても仲良しコンビ。友情、恋情、愛情。少しずつ形を変えていった2人の絆は、これからも続いていくのでしょう。正反対だからこそ良いのかもしれません。お互いがお互いを補っているかのような。ようやく和やかな空気が訪れたからか、名前ちゃんが声高らかに宣言します。

「コヅケンの健康は、私が守るので安心して下さい!!」

立派な看護師になった彼女が言うのですから、我々も、コヅケンのファンも、きっと安心でしょう。2人も、どうか素敵なご家庭を築いて下さい。幸せのお裾分けをしてくれて、ありがとうございました。我々は、これからも密かにコヅケンのご活躍と、ご家族の幸せを願っております。



20220324







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