虹をかけるとき

あれから12年の月日が流れました。あの日、雷鳴が轟く中、2人で手を取り合っておつかいに出かけた子供達のことを覚えているでしょうか。
 あの2人が住んでいたのは三門市と言います。その名前を聞いて、ハッとなられる方も多いのではないでしょうか。そうです。近界民と呼ばれるモンスターに襲われたあの街です。2人も例外ではなく、4年半前のあの悲惨な出来事を経験しています。そんな2人は、今、どうしているでしょうか。私たちは再びあの地を訪れました。

「……こんにちは。おかけになってお待ち下さい」

2人が居るというボーダーと呼ばれる組織を訪れると、応接室に通されました。ボーダーという組織は、近界民から市民を守る為にここ数年に出来た組織らしいです。士郎くんは、A級と呼ばれる精鋭部隊の隊員として。名前ちゃんは、B級の主力部隊で狙撃手として活躍しているそうです。

<<あれ、2人って高校生くらいじゃなかったっけ?>>
<<まだ若いのに、兵士として闘っているのか>>







しばらく待っていると、1人の少女が部屋に入ってきました。

<<……もしかして、>>

「こんにちは。…と言っても、お久しぶりらしいですね?」

にっこりと微笑んだ彼女の表情は、あの日、雨の中頭を抱えて蹲った士郎くんをやさしく抱きしめて、「だいじょうぶだよ」と励ましているときの表情と少し重なります。そうです。この子が名前ちゃんです。名前ちゃんは、高校2年生になっていました。

「士郎くんは、今、遠征に出ているんです」

そう言って名前ちゃんは、我々に様々なことを教えてくれました。士郎くんが、強化聴覚と言われる"副作用(サイドエフェクト)"を持っているということ。その力は、とても重宝されていて、街の平和を守るための情報収集に欠かせない存在なんだとか。

「4年半前に経験したことを、私は決して忘れないと思います」
『戦うことは怖くありませんか?』

私たちの問いに数回瞬きをした名前ちゃんは、小さく深呼吸をした後、鋭い眼差しで応えてくれました。

「戦うこと事態に"怖い"という感情は抱かなくなってきたかもしれません。私は、そんなことよりも、私が大事にしている人がいなくなってしまうことが怖いから。だから、私は剣をとるんです」

哀しみを帯びた瞳に宿るのは、憎しみだろうか。もしかしたら、名前ちゃんは4年半前にたいせつなものを失ったのかもしれません。だけど、

「守る為の力です。でもそれは、他人のたいせつなものを犠牲にして良いことではありません」

哀しみにとらわれるだけではないように思えたのは、私たちのエゴでしょうか。

<<………>>

「そう言う気持ちも忘れずに、私は戦います」
『辛くはありませんか?』
「つらくなんかないですよ。だって、私にも、ナイトがいるので」

茶目っ気溢れる笑顔を魅せた彼女の顔には、もう哀しみは映っていませんでした。私たちは、あの頃と変わらず支え合っている2人のことを、これからも応援し続けています。







[おまけ]


「……しろちゃん、おかえり」
「いい加減"ちゃん"付けはやめてくださいって言ってますよね」
「かわいくなーい」

可愛い後輩なのにな、と呟く彼女に、げんなりする。いつまで経っても、ボクのことを子供扱いしてくる。最近平気そうだったのに、目の下に隈までつくって。そんな顔で出迎えられても、嬉しくなんかないのに。結局、僕はいつまで経っても、

「先日ね、取材を受けたんだ」
「取材?」
「そう。はじめてのおつかいに出てたの知ってた?あれから何年ってやつだよ」
「……はあ、」
「それで、戦うことは怖くありませんか?って聞かれたの」
「………」

こういうときになんて声をかけるのが正しいのだろうか。声音がすごく震えている。それだけで、今、どんな状態か分かるのに。無性にイライラしてくる。

「だから、その時思ったんだよね。私、しろちゃんのおかげで戦えてるのかもなって」

ビクリと体が跳ねて、顔を上げれば、あの頃と変わらない顔をして笑っている。それだけで、なんとも言えない感情がわき上がってきた。

「だから、ちゃん付けはやめてっていってるでしょ」

いつまで経ってもこの人には敵わない。ただ、

「また、目の下に隈出来てますよ。その顔やばいんで、寝てきたらどうですか。見ていて、こっちが具合悪くなるんで」

指先で、すこしそこに触れる。その途端、一定のリズムを刻んでいた拍動が、狂ったように早くなっていく。今は、それだけでいいや。

「ほんと、かわいくない!!」

名前ちゃんからは、いつも、いいおとがする。




20220310










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