時枝充(5)と幼馴染(5)

のどかな町並みが広がる三門市。そこに、同じ幼稚園に通う仲良し2人組がいました。

「みつるくん、遊ぼう!」

ニコニコ笑顔でとある男の子に声をかける女の子。なまえちゃん、5才。走ることが大好きで、幼稚園の運動会でかけっこでは1番をとりました。最近はスポーツ観戦に夢中で、お父さんと大声を上げながらテレビにかじりついているそうです。

「うん。何して遊ぶ?」

そんな女の子の手をとって男の子の名前は、みつるくん。なまえちゃんと同じく5才です。基本的に受け身なことが多いようですが、周りのことをよく見ているようで、とても賢いそうです。いろんなことに興味関心があって、好奇心旺盛ななまえちゃんのことを、よくフォローしてくれます。そのため、面倒見が良い男の子だと、幼稚園の先生から頼りにされています。

「うーん!冒険行こう!!」
「それは、ムリじゃない?」

今日は、そんななまえちゃんが言い出した我儘から発案された、この2人のおつかいという名の大冒険をカメラが追いかけます。







「良い?バナナ1房と、ネコちゃんの餌、ココアの粉と………」

先生!?ちょっと頼むものが多くありませんか!?5才の2人に覚えられるかな?と不安げにスタッフが様子を見守ります。カメラマンの1人はため息を吐いていました。しかし、別のカメラマンが黙って聞いていた2人くんを移したとき、それは杞憂だったことに気づかされました。

「バナナ1ふさーと?ネコちゃんのごはんと、ココアの粉と…」

1つ1つ反復するなまえちゃん。何度も声に出して言って覚えようとしています。そんななまえちゃんの声を聞きながら、紙に何かを書いているみつるくん。なんと、みつるくん。平仮名なら字を書くことが出来るのです。隠しカメラで、先生がその様子を撮ってくれていました。

<<すごいな!?>>
<<頭良いんだねー>>

"ばなな""ねこのごはん""ここあ"

クレヨンで、そう書かれた紙を鞄の中に入れるみつるくん。準備は完璧です。

「じゃあ、いってらっしゃい!」
「「「がんばってねー」」」

クラスのみんながお見送りもしてくれます。笑顔で頷いた2人は、手を繋ぎました。さあ、おつかいのスタートです!!






おつかいへの道中は、いつもと立場が逆転していました。いつもは、みつるくんのことを振り回すなまえちゃんですが、大人がいない中、道路を歩くことはあまりありません。少し不安そうにみつるくんの手を握っています。対するみつるくんは、とても落ち着いていました。

<<マイペースだな、みつるくん>>

「みつるくん、どうして黙ってるの?」
「ねむたい…」

いつも眠そうな目をしているみつるくん。普段なら、お昼寝をしている時間なので、とても眠いようです。ですが、しっかり周りを見ているみつるくん。横断歩道に辿り着くと、繋いでる手に力が加わりました。そして、足を止めてなまえちゃんの方を向きます。

「はい。右見て?左見て?」
「もう1度右を見る!!」
「うん。車来てないね。行こう」

繋いでない方の手を高く上げて、横断歩道を渡っていきます。この様子に、見守っていたスタッフは、ホッと肩の力を抜きました。そんな2人を珍しそうな目で見る町の人たち。「おつかい?」と聞くと、誇らしげになまえちゃんが頷きます。みつるくんは、ぺこりとお辞儀をしてご挨拶。本当にしっかりしています。カメラマンの1人が「うちの息子に見習わせたい…」と呟いていました。だけど、このときも、みつるくんはしっかりと人のことを見ていました。

『えらいね、おつかい?』
「……はい!あのね「行くよ」…え!?どうしたの?みつ「しーっ」え?」

カメラマンの1人が調子に乗って話しかけました。

<<あー…怪しく見えるんだ?>>

工事の服に身を包んだカメラマンでしたが、この辺では、どこも工事は行われていません。それを見逃さないみつるくん。しっかりとなまえちゃんの手を引っ張って、守ろうとします。はじめて会った人には、大人しくて頼りない印象を持たれることも少なくないみつるくんですが、そんなことはありません。そういうところを知っているからこそ、今回なまえちゃんと2人でおつかいを任されたのです。

「なまえちゃん。変な人に名前を教えたらダメだよ」
「?言ってないよ?」
「……うん。とにかく、気をつけてね」

みつるくんと呼ぼうとしたのを防がれたことは、もう忘れてしまっているようです。多分、悪気も無かったし無意識だったのでしょう。それに、みつるくんにとっては変な人でしたが、そんな2人を守っている人なので、実はあのカメラマンは良い人なんです。でも、そんなことみつるくんには分かりません。みつるくんは、なまえちゃんに悪気がないことは分かっているので、それ以上は言いませんでした。それ以上言って、なまえちゃんの機嫌を損ねるわけにはいかなかったからです。其処まで、5才の男の子が分かっているかは分かりませんが。

<<いや、多分分かってるよこの子>>
<<眠そうな目をしつつ、出来る子だきっと>>

デパートに辿り着くと、みつるくんはなまえちゃんに問いかけます。

「なに買うんだった?」
「ばなな1ふさと、ねこちゃんのごはんとー……??」

<<ココアの粉だよ!!ココア>>

「粉!」
「なんの?」
「………」

みつるくんは、なまえちゃんが思い出そうとしているのを待ちます。

<<ココアだよ!なまえちゃん>>

本当なら、メモを見れば直ぐに分かるのに、どうしてしないのだろうか?とスタッフは疑問に思います。だけど、そんな2人を見守りました。

「粉、粉……」
「………」
「うう…、わかんない。みつるくん、助けて?」

その言葉を聞いた途端、みつるくんは、ようやく鞄を開けました。どうやら、なまえちゃんが助けてと言うのを待っていたようです。みつるくんは紙を広げて、

「ココアじゃない?」
「そうだ!!ココアの粉だ!!ありがとうみつるくん」
「……粉まで覚えてくれてたから助かったよ」

みつるくんの紙には"こな"までは書かれていません。そう告げると、元気を取り戻したなまえちゃん。唖然とする周りのスタッフたち。カメラマンの1人が「みつるくん、人生何回目?」と呟いていました。心の底から同意します。それから、スムーズに買い物を終らせた2人は、帰路を急ぎます。

「どっち持つ?」

ネコの餌が入った袋と、ココアの粉とバナナ1房が入った袋。ちなみに、ネコの餌の方が重たいです。みつるくんは、ここでもなまえちゃんに応えを委ねます。喧嘩になるのがイヤなのです。なまえちゃんは、ネコの餌が入った袋を選びました。

「うう…重たい…」

しばらく歩いていると根をあげたなまえちゃん。みつるくんは怒ったりせず、交換します。

「すごいね、こんな重たいの持ってくれてたの?ありがとう」
「へへへっ、みつるくん疲れたら交代交代しようね」
「うん」

終始和やかな空気が流れます。仲良くドレミの歌を歌いながら、歩みを進めていきました。




(ただいまー)
(((((おかえりなさーい)))))


After Story→→あれから11年                              





20210208







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