ちいさな初恋
あれから13年。とっても仲良しだったのに、離れ離れになってしまった男の子と女の子がいたことを、みなさんは覚えていますか。2人は、最後のプレゼントとしてお互いにハンカチを送りました。込められていた想いは、きっと、"泣いてしまったときに、代わりに拭えるように"でしょうか。どのように成長したのか気になって、それぞれのご家庭に訪れた時、なんと、同じ日に同じ場所にいるということが判明しました!
<<えーーー!?>>
会場は、東京体育館。春の高校バレーの全国大会が行われる場所です。
「黒尾ナイスキー!!」
「ッケンマ!!」
「虎っ!」
はじめに見つけたのは鉄朗くん。鉄朗くんは、なんと東京都第3代表である音駒高校の主将になっていました。泣き虫だった頃の面影はゼロです。ひたすら上だけを見て、バレーボールを追っている姿は、とてもかっこ良くて我々は誇らしい気持ちになりました。そんな鉄朗くんへインタビューに向かいます。
「お疲れ様です!!」
「ああ、ありがとうございます」
さわやかな笑み。まさにスポーツに励む好青年です。ここで、我々は切り込みます。
「実は、私たち13年前に、はじめてのおつかいという番組で取材させていただいた者でして……」
「ああ、父から聞いてます」
鉄朗くんたちは、我々が追っていたことなんて知りません。お父様の方から、今日取材が行くかもしれないということは聞いていたようで、話はスムーズに進みました。我々は、気になっていることを問います。
「ちなみに、名前ちゃんとは連絡とったりは……?」
「偶にしていますね」
「そうなんですか!?」
「ええ。高校で再会しまして」
「同じ高校なんですか?」
「いいえ」
これでもかと眉を顰めた鉄朗くん。どういうことだろうか、と首を傾げていると…
「木兎ー!!なにやってんのよー!!シャキッとしてシャキっと!!」
次の試合を待ち構えてアップをしているコートの方から、とても大きな声援が響きました。少し猫背になって、どこか落ち込んでいる様子の選手に喝を飛ばしているマネージャーさんのようです。それを見た途端、さらに顔を歪めた鉄朗くん。我々は、あっ、となりました。
「もしかして……?」
「ああ、はい。あれが、名前チャンですよ?」
<<まっっっったく、変わってないな!!?>>
「そんな調子で負けたら、モゴッ「苗字さん!これ以上は、止めてあげてください!!」っ赤葦、」
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全国大会終了後、インタビューと称して我々は、名前ちゃんと鉄朗くんに来てもらいました。仲良く2人並んで歩いてきてくれた姿は、あの日と全く同じなのに、表情はどこかぎこちない2人。2人は、あの日のことを覚えているのでしょうか。
「「………」」
その問いに、2人ともが探るようにお互いを見ました。我々は少しさみしい気分になりますが、仕方ないのかもしれません。あの頃の2人は、まだ、たったの5歳です。その当時から、高校まで会っていないのなら忘れていたって仕方在りませんよね。スタッフが励ますように、そう言うと、二人ともが否と答えました。
「「えっ?」」
お互いが驚いたように目を見合わせます。
「……苗字サン?合宿で初めて会ったとき、はじめましてって言いましたヨネ?」
「黒尾だって、それにはじめましてって返したじゃんか!」
「え、なに、覚えてんの?」
「そっちこそ、覚えてるの!!?」
今はじめて知ったという衝撃の事実に、2人ともが同じ顔をしています。
「じゃあ、なんで、あの時はじめましてっていったんでスか?」
「……はずかしいじゃん。10年も前のこと覚えてるなんて、」
「なんだよそれ。俺は、忘れられてるって思ってたんでスけどー?」
「……私だってそうだもん。っていうか、今も大事にハンカチ持ってるって言ったら引く??」
これでもかと真っ赤にさせた頬。それは、あの日、なまえちゃんのことをだいすきな女の子と言ったてつろうくんの顔そっくりでした。その様子を見た鉄朗くんは、クツクツと笑い出します。
「引かねーよ。なんなら、俺もだわ」
「えっ」
どうやら、我々はとても良い仕事をしたようです。名前ちゃん、鉄朗くん。あの日のように、これから続く長い長い人生を歩いて行ってくださいね。そう願うばかりです。
20210621