必勝の目玉焼き

あれから13年。吃音症を克服しようと、おつかいを頑張ったあの少女と、それを守ろうとする小さな王子様は、どのように成長しているのでしょうか。我々は、それぞれのご家庭を訪ねました。

「へえ…今でも仲良くされているんですね」

幼稚園、小学校、中学校と同じ所へ進学した2人。なんと、高校の進学先も同じにしたそうです。衛輔くんはバレーボールをはじめたのをきっかけに、"守りの音駒"という異名を持つチームで要であるリベロを務めているそうです。高校に進学しても、何かを守る姿は、きっと頼もしいのでしょう。あの日の小さな手が、仲良しの女の子を必死で守る姿は、とても印象的でした。今は、素敵なチームで仲間が繋いだボールを守っているようです。対する名前ちゃんは、吃音症を克服し、そんな衛輔くんたちを支えるマネージャーになったそうです。

「衛輔ー!!頑張ってー!!」

あの日。たどたどしく小さな声で紡がれていた言葉。今は、そこに強い想いを秘めて。これでもかと叫ぶ姿は、とても美しいものでした。どんなに周りの声援が大きくても。どんなに名前ちゃんに声が小さくても。きっと、衛輔くんは、あの日のように拾ってくれるのでしょう。だけど、今は、それだけじゃない。その証明をしているかのようでした。







名前ちゃんは、ちょっぴり恥ずかしがり屋なようで、ご両親に顔は撮らないであげてほしいと言われました。

<<思春期の女の子だもんね。配慮してあげないとね>>

今日取材をすることは、2人に伝えてあります。我々は、その想いを汲んで遠くから見守ることにしました。あまり顔はよく見えませんが、あの日と同じように仲睦まじそうに歩く姿は、込み上げてくる何かがあります。

「名前、オレさ…」

あの日とは逆で、今日は衛輔くんが足を止めました。不思議そうに横に並んで、同じように立ち止まる名前ちゃん。衛輔くんが何を言おうとしているのか、測りかねているようです。でも、急かしたりしません。2人の流れるこの空気感は、あの日と何も変わっていませんでした。

「オレ、プロを目指そうと思ってるんだ」

意を決して紡がれた言葉は、とても壮大な夢でした。リベロとして、日本を率いたい。

「だから、いずれは海外のチームでのプレーも考えている」

離れ離れになるかもしれない。少しさみしそうな空気が2人に流れます。何かを考えるように腕を組んだ名前ちゃん。だけど、そんな悲しい空気を壊すかのように、明るい声音が響きました。

「衛輔。私はね、管理栄養士になろうと思うんだ」
「……?」
「衛輔がさ、はじめて私の作ったご飯を食べてくれた日に思ったの。きっと、衛輔は、もっともっと上を目指すんだろうなって。これからも、傍にいたいから。衛輔の役に立てる存在でいたいから。だから、私は料理と栄養学を極めるよ」

いつだって、私の事を守ってくれたから。見捨てずにいてくれたから。辛かったことも乗り越えられた。衛輔がしてくれたように、私だって、衛輔のことを支えたい。そうやって笑う名前ちゃん。悔しそうに泣いていたあの頃。自信が無くて怖がっていたあの頃。それを乗り越えた少女は、とても強くなっていました。

「いつから、そんな格好良くなったんだよ」
「めちゃくちゃ格好良い幼馴染に引っ張られたからかな?」

見つめ合って笑い合う姿は、あの頃と何も変わりません。かなり伸びた背丈と、大きく成長していった心。そんな2人が見据える先には、とてもとても大きな夢があるようです。

「衛輔の夢が私の夢だよ」
「……ありがとな。絶対叶える」
「うん。信じてる」

数年後、ロシアで経験を積んだ衛輔くんは、今、日本代表のリベロとして世界と闘う仲間を守っています。そんな衛輔くんを支える名前ちゃん。あの頃と違って、2人は守り守られるという素敵な関係を築き続けているようです。これからも、頑張り続ける2人のことを、我々は応援しています。



20210623





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