ヒーリング体質の副作用

みなさんは、とても大変だったあのおつかいを覚えていますか?家を飛び出してわずか数十メートルで歩みを止めてしまった小さな2人。そんな2人は、どのように成長しているのでしょうか?番組は取材しようとアポを取ったところ、そんな2人の様子を紹介してくれるというのです。その代わり、こちらの取材はNGとなりました。

<<えっ??>>
<<どういうこと…?>>

三門市と聞いて、ピンとくる人もいるんじゃないでしょうか?そうです、あの忌々しい近界民と呼ばれるモンスターに襲われた街です。2人が元気にしているんでしょうか。とても心配になりながら、いただいたビデオテープを再生しました。

「雅人」
「……ンだよ、うっせえな」

そこにいたのは、相変わらず仲睦まじい2人でした。雅人くんと名前ちゃんは、ともにそんな近界民から街の人々を守るボーダーと呼ばれる組織に在籍しています。

<<ああ…だから、簡単に番組の取材を受けられないのね>>

雅人くんはB級上位の隊長、名前ちゃんはA級2位の部隊で狙撃手として活躍しているそうです。そんな2人。ボーダーでは重宝される力の持ち主でした。

「つーか、なんだよさっきから。気持ち悪い感情向けんな」
「……気持ち悪いとか言わないでよ」
「うっぜ」

幼い頃から「チクチクする」「いたい」「きもちわるい」と言ったことをよく言っていた雅人くん。実は"感情受診体質"という副作用の持ち主でした。その名の通り、他人から向けられる感情が肌に刺さるのです。

<<ええっ>>
<<殺意とか、憎しみだと痛いってことか?>>
<<好意はあたたかい…?>>
<<悲しいとか辛いだと冷たい??>>

「なんだよ」
「でも、触ったら大丈夫なんでしょ」

そう言って名前ちゃんは、雅人くんに触れます。

「おまえのクソみたいな感情が勝つときもあるっつってんだろ」
「……うん、」
「で、」
「で?」
「今度は何があった」

その問いにピクリと身体を震わす名前ちゃん。雅人くんには名前ちゃんが考えていることが、いとも容易く分かるようです。

「遠征、行ってきた」
「………」
「人型の近界民がいた」
「………」
「撃った後、息をしてた」

逃げれば良かったのに、触れてしまった。せめて、安らかに逝くことができたらと。そんな能力を持っていると、分かっているなら尚更。

「冬島さんに怒られた」
「心配してたんだろーが」
「うん、わかってる」

ヒューヒューと苦しげな呼吸を繰り返した人型近界民。真っ黒な闇に染まっていた瞳が、名前ちゃんの姿を写した途端、少し柔らかい雰囲気に変わったと言う。

「殺してくれて、ありがとうって言われた」

あなたのような優しい人に最後を見てもらって幸せだと。

「どうして戦争って亡くならないんだろう。たまに思うんだ。住んでる場所が違うだけで近界民と呼ばれる。考えていることはみんな同じなのに」
「………」
「今の隊のことは大好きだけど、近い未来、私は離れるよ」
「………オレんとこには来んなよ」
「ひどい」

ふふっとようやく笑みがこぼれた名前ちゃんは、どこかスッキリした顔をしていました。その瞳の中には、どこか力強い何かを宿しています。

「ねえ、雅人。私、医者になるよ」

幸い進学校に通えるだけの頭もあった。そして、この副作用も戦争で得たものも、全て利用する。そして、苦しんでいる人をたくさん救う。

「……なあ、名前」
「雅人。だから、雅人だけは知っててね」

感情を殺すことを覚えた私の本意を。それでも、私の事を全て見抜いてくれる貴方がいるから、私は、まだまだ強くなれるんだ。儚げに笑う名前ちゃんを、大きな身体が包み込んで閉じ込めました。

「だったら、オレから離れるんじゃねえぞ」
「離れられないって知ってるくせに」

高校卒業後、医大生になった名前ちゃんはエンジニアとしてボーダーでアルバイトをしながら、夢に向かって精進しているそうです。その後ろには、必ず雅人くんがいます。2人が歩んでいく未来は、過酷なモノになると思いますが、私たちはそんな彼らを応援し続けたいと思います。



20210513



ヒーリング体質の副作用

ランクはB。触れることによって相手に"安心感"や"安らぎ""癒やし"を与えることが出来るサイドエフェクト。万人から好かれる。








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