澤村大地(5)と妹(3)
東北地方の南東部に位置する宮城県。のどかな住宅街が並ぶ地域に、賑やかな声が響くお家があります。
「なまえ!あぶないから、ダメだっ!」
「やー!にぃにー!」
階段の下でじゃれついている兄妹。こちらが、本日おつかいに行くターゲットです。
「なまえ!!」
「にぃにー!!」
お兄ちゃんの名前はだいちくん、5才。しっかり者で正義感の強い男の子です。3年前に、妹のなまえちゃんが生まれてからは、さらに良いお兄ちゃんになってきてます。対する妹のなまえちゃん、3才。とっても甘えん坊で、大のお兄ちゃんっ子です。だいちくんがすることを、なんでも真似したがるんだそうです。
「にぃに、お手手つないで?」
「おう!つなぐぞ!」
今日は、お腹の大きくなったお母さんの代わりに、2人でおつかいに行くことになっています。なまえちゃんはもうすぐお姉ちゃんになるんです。
「おかあさん!お腹しんどくない?」
元気に問いかけるだいちくん。
「ままー!」
そんなお兄ちゃんにならって、なまえちゃんもお母さんを気遣います。お母さんは、「だいじょうぶよー」と笑って、「おつかいをお願いねー」と2人の頭を撫でた後、仲良く玄関を出て行く子供達を見送りました。
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仲良く手を繋いでスーパーへの道のりを急ぐ澤村兄妹。お兄ちゃんのだいちくんは、なまえちゃんの手を離さないことに使命感を持っているようです。あと数ヶ月もすれば、もう1人兄妹が増えます。日に日に逞しくなっていくだいちおにいちゃんが、頼もしくて仕方ありません。その横に居るなまえちゃんは、そんなお兄ちゃんの背中を1番見て育つので、きっと良いお姉ちゃんになるでしょう。
「にぃに…あっ、おにいちゃん!」
「にぃにでも良いぞ!」
「んーん!なまえ、おねえちゃんになるから、おにいちゃんって呼べるように練習するの!」
「そっか」
なんだか、ちょっぴり寂しそうなだいちお兄ちゃん。
「おにいちゃん!なまえ、お歌練習したの!」
そんなお兄ちゃんに全く気がつかないなまえちゃん。
「なんだなんだ?オレも一緒に歌いたい!」
「いーよ!きいててね?」
♪〜
なまえちゃんは、音楽が大好きな女の子らしいです。もう少し大きくなったら、ピアノ教室に連れて行ってみたいですね、とお母さんが言っていました。そんな風に楽しく歌いながら歩いていると、あっという間にスーパーに辿り着きました。果たして、2人は買う物を覚えているかな?
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「んー!おにいちゃん!何買うんだっけ?」
「えーっと…」
困ったように首を傾げるなまえちゃん。だいちお兄ちゃんも考えます。
「なまえ、今日のご飯なんだっけ?」
「んーとね!カレー!!」
そうです。おつかいに頼まれた物のヒントは今日の晩ご飯。お母さんは、何が無いからカレーが作れないって言っていたかな?うーんうーん、と頭を悩ますなまえちゃんを黙って見つめるだいちくん。おやおや?これは、もしかしたら、お兄ちゃんは答えが分かっているのかな?
「ルー!」
「せいかーい!」
きゃーっと笑ってハイタッチする澤村兄妹。一際小さな買い物客を、付近の人々が微笑ましげに見つめます。それにしても、だいちくん。とっても良いお兄ちゃんをしていますね。これは、将来が楽しみです。
「こっちかなー?」
「待って、なまえ」
ぐいぐいとお兄ちゃんの手を引いていくなまえちゃん。よくお母さんとお買い物に訪れているので、カレーのルーの場所は覚えています。その記憶力に、私たちは脱帽です。
「あったよ!」
すぐに見つけたなまえちゃん。お兄ちゃんに教えてあげます。だいちくんは、なまえちゃんの頭を撫でて褒めてあげました。お手伝いを頑張ったら、よくこうやってお父さんが褒めてくれるんです。「自分がされて嬉しかったことは、妹にもしてあげなさい」とお父さんは、よく言っています。
「んー!おにいちゃん!届かない!」
ただ、此処で問題がありました。カレーのルーは棚の上の方にあって、なまえちゃんの身長では手が届きません。後からこの光景を見たお母さんは後悔したそうです。重い物は大変だから避けたそうなのですが、こんなところにトラップがあるとは、大人の視点では気づきにくかったですね。
「とおっ!!」
だいちくん、ぴょんぴょん飛び跳ねてみますが、それでも届きません。どうしようかなーと頭を抱えます。そして、
「なまえ、おいで」
「うんっ!なにするの?」
「だっこ」
大地お兄ちゃん、今度は妹を抱えてみます。なまえちゃんは必死になって手を伸ばしました。でも、残念ながら届きません。困った。とうとう2人して頭を抱えます。だけど、お兄ちゃんは直ぐに切り替えました。
「おにいちゃん?」
「だれかにとってもらおう!」
「おおー!」
お兄ちゃんの提案に拍手をして凄い凄いと言うなまえちゃん。まだ、取れてないのに誇らしそうです。ただ、ここで1つ問題があります。どんな大人に声をかけるかです。2人の周りにはいろいろな人が歩いています。赤ちゃんを抱えたお母さん。仕事帰りなのかスーツを着ているお兄さん。お菓子コーナーの近くで駄々をこねる兄妹。だいちくんは、周りの人をよーく観察しました。そして、
「おまわりさん!!おつかれさまです!!」
1人男性に駆け寄りました。だいちくん、服装がよく似ていますが、この人はお巡りさんではありません。此処のスーパーの警備員さんです。
<<でも、1番安全な人よなー>>
「欲しいものがとどかないところにあります!とってもらえませんか!おねがいします」
ぺこりと頭を下げただいちくんに倣って、なまえちゃんも頭を下げました。警備員のおじさんは快く引き受けてくれて、見事カレーのルーをゲットです。良かったね。これで、おつかいが完了です。
「おにいちゃん、お菓子!」
ええ?お菓子?
「うん!買いに行こう!」
実はお母さんから1つなら、お菓子を買ってきて良いよと言われてます。今日頑張った自分へのご褒美にしようね。だいちくんとなまえちゃんは、仲良くお菓子コーナーに向かいました。そこで、お目当ての物を見つけたなまえちゃん。2つ手に取って悩みます。なまえちゃん、お菓子は1つまでだよ!
「こら!おやつは1個までだぞ!おかあさんにメって言われるぞ!」
流石、だいちお兄ちゃん見逃しません。だいちくんは、もう既に買いたいお菓子を決めていました。頭を抱えて悩む妹を見守ります。
「ふえぇ……」
なまえちゃんは、苺のチョコレートとポテトチップスで悩んでいました。でも、いつまで経っても決められません。お母さんの言いつけを守りたいだいちくん。妹が、どれだけ駄々をこねても、折れません。
「おにいちゃん」
「ダメだ!」
「うー!けちっ!」
「おかあさんとの約束、守らなきゃダメだぞ!」
「にーに!」
「………」
にーに呼びに心が揺れるだいちくん。でも、約束は約束です。対するなまえちゃんは「言わなきゃバレないよ!」と言い出します。
「ウソついたら、針千本だぞ!!」
これは約束をするときに、毎回お父さんが言う台詞です。ウソはいけません。それに、小さい2人には分からないかもしれませんが、レシートを見ればバレてしまいます。そんなことまでは、分からないだいちくん。だけど、ウソをつくことはしたくありません。やがて、大きな大きなため息を吐いた後、自分が手に取っていたお菓子を棚に戻しました。
「にいちゃんがポテトチップス買うから、なまえはチョコを買うんだ」
そしたら、お兄ちゃんのポテトチップスを分けてあげる。素晴らしい妥協案です。
「いいの?」
「にいちゃん、ポテトチップスも食べたかったんだ!」
その言葉に、1部始終を見守っていた世の主婦達が口元を抑え悶えました。主婦達だけではありません。そんな様子を撮影している女性カメラマンのハートも奪ってしまっています。
<<ええ男になるな、だいちくん>>
ようやくレジへと言った2人は、帰り道も手を繋いで仲良く歩きました。これからも、仲良しな兄妹でいてくださいね!
(だいち!また、なまえが欲しいお菓子買って自分の買わなかったでしょう!?)
(オレも食べたかったんだよ!おかあさんもポテトチップス食べる!?)
(おにいちゃん、おいしいね)
(あんまり食べ過ぎて、晩ご飯入らなくなったらダメだぞー)
((はーい!!))
After Story→あれから13年
20210222