北信介(4)と幼馴染(3)

(※方言について違和感がある箇所がございましたら、やさしく教えていただけると幸いです)


兵庫県の稲作が栄えるとある町。兄妹のように仲良しな男の子と女の子がいました。

「しんちゃん、なまえちゃんのこと頼んだで」
「おん。だいじょうぶや、まかせとき」

おばあちゃんに声をかけられて、こくりと頷く男の子。しんすけくん、4才。とってもしっかり者で、まじめな性格の持ち主です。

「なまえちゃん、しんどなったら無理せんとちゃんとしんちゃんに言うんやで」
「はーいっ!」

元気よく返事をした女の子、なまえちゃん。しんすけくんより1つ年下の3才。心優しい性格で、おっとりしています。絵本を読むことが大好きで、面白い本を見つけてはしんすけくんに教えてあげます。

「ほら、なまえちゃん」
「ぎゅー!」

なまえちゃんは、差し出された手を握りしめます。仲良く手を取って歩き出す2人を、2人のお母さんとしんすけくんのおばあちゃんが見送ります。

「きっと、大丈夫や」
「……はい」

しかし、そんな2人の背中を見ていたなまえちゃんのお母さんは、とても不安そうな顔をしていました。実は、今日おつかいに出るには、とても心配な理由があるのです。







おつかいの内容は、とても簡単な内容にしてあげました。家から、真っ直ぐ歩いて、横断歩道を渡り右折します。しばらく歩いて行くと電気屋さんが見えてくるので、そこで単3の電池を買ってくることです。何かあったときのために、荷物は小さくて軽いもののほうが良いだろうと、しんすけくんのおばあちゃんからの提案でした。

「なまえちゃん。しんどなってない?」
「おん!しんちゃんおるから、平気やで」
「わかった」
「ありがとお」

ゆっくり歩くなまえちゃんのペースに、しんすけくんが合わせます。5分おきくらいに、「だいじょうぶ?」「しんどなってない?」と確認していました。これには、カメラマンもびっくりです。でもそれには、きちんと理由がありました。

「……しんちゃん」
「?しんどいんか?」
「ちゃうよ。ごめんな。ゆっくりしか歩けんくて」

実はなまえちゃんには持病があるのです。昔から肺が弱くて、入退院を繰り返していました。そのせいか、外では全く遊べず、お友達が少ないらしいです。そんななまえちゃんにはじめて出来たお友達が、1つ年上のしんすけくんでした。

「そんなん気にせんでええ」
「でも、でもな」
「ゆっくり歩くんは、楽しいで」
「楽しい?なんで?」

なまえちゃんとしんすけくんが通っている幼稚園では、子供達をおつかいに出すのが流行っていました。だけど、病気のことがあって、なかなか踏み出せなかったなまえちゃんのお母さん。そんななまえちゃんのお母さんを見かねたしんすけくんのお母さんが、「せやったら、うちの息子と一緒やったらどうや?」と声をかけたのです。それで、今日、おつかいに行くことになりました。

「ゆっくり歩くとな、気づけんようなことに気づけるからな」
「気づけんようなこと?」
「おん。下見てみ?」

しんすけくんが地面を指さします。其処には、蟻の列が出来ていました。

「わあー、アリさん?」
「おん。いっしょうけんめい働いとるんやな。このアリさんたちはな"働きアリ"言うんやって。おうちで待っとる女王さまにな、おいしいご飯をはこんであげよるんや。ばぁちゃんがな、そうやっておしえてくれた。どや?ゆっくり歩かんと気づかんかったやろ?」

しんすけくんは、大のおばあちゃんっ子。いつもゆっくり歩くおばあちゃんと景色を楽しみながら色々な話をするんだそうです。だから、どんなになまえちゃんがゆっくり歩いたとしても、気になりません。それよりも、なまえちゃんの体調の方が気になります。

<<まだ4才なのに、しんすけくんめちゃくちゃしっかりしてるな>>

「せやからな、ゆっくり歩くんは楽しいねん」

なまえちゃんは心配せんでええ、と優しい眼差しが訴えかけます。その言葉に、なまえちゃんの頬が綻びます。そんな2人を見守っているカメラマンは、微笑ましい光景に癒やされました。

「無理したら、あかんよ。辛かったら我慢するんはナシや。女の子はな、そうやって笑うとるんが1番ええんやって。オレな、なまえちゃんがニコニコしとる顔が好きやねん。大好きやねん」
「ふふっ!おん!!私もな、いっつもやさしいしんちゃんが大好きやで」
「ははっ!"りょうおもい"ってやつやな。ばあちゃんに言わなあかん」
「りょうおもい?」
「おん。男の子と女の子がな、お互いのこと大好きなことを、そう言うんやて」
「そうなんか!しんちゃんは私とりょうおもいなんやね!」

繋いでいる手をブンブン振り回すなまえちゃん。ハミングをしはじめて、とってもご機嫌です。2人はそのまま終始和やかに進んでいき、きちんと単3の電池も買えました。後は、お家に帰るだけです!







「なまえちゃん?」
「……っ、うん」

ところが、事件は帰り道に起きました。行きの時よりも、なまえちゃんが歩くスピードがかなり遅くなっています。その様子に、誰よりもいち早く気づいたのは、しんすけくんでした。よく見るとなまえちゃんの顔は青白くなっています。

<<よく見てるんだねー>>

「ええか?ウソは言うたらあかんで?しんどいんとちゃう??」
「……うんっ、」

なまえちゃんの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちていきます。

「ちゃんとおしえてくれて、ありがとうな」

そんななまえちゃんの頭をやさしく撫でるしんすけくん。そして、あたりをキョロキョロと見渡しました。どこか休めるところを探しているんでしょうか?だけど、此処で問題がありました。近くに公園のような場所はなく、この先はずっと、住宅街が並んでいます。後から聞いた話、公園を通る道にすれば良かったと、お母さん達は後悔したそうです。

「……今日は、お薬持ってないん?」
「持ってるけどな、お薬はな、息が出来んようになったり、ゴホゴホが出だしてから飲むんやでって言われとる」

息が出来ないほど辛くはないし、咳も出てないよと言い張るなまえちゃん。だけど、しんすけくんは分かっていました。これ以上、なまえちゃんを歩かせたら、発作が出てしまうと。しんすけくんは、「うーん…」と何度か唸り考えます。

「しんちゃん、私、だいじょうぶやで?」
「あかんよ。ムリしたらあかん。なまえちゃんがしんどそうにしとるところ見たないんや」
「……でもな、はよ帰らんと」
「そんなことより、なまえちゃんが大事やねん。心配なんや。やからな、ムリさせたくないねん」

しんすけくんは、そう言うとしゃがみ込みました。訳が分からず首を傾げるなまえちゃん。そんななまえちゃんに、先程買った単3の電池を渡します。

「なまえちゃんは、これ持っとって。オレが、なまえちゃんおんぶしたる!」

<<かっこいいな!!?本当に4才???>>

「でも、」
「ちょっとオレの背中でな、休んだらええねん。そんでな、楽になったら、またいっしょに歩こうや。な?」

ためらうなまえちゃんを、やさしく説得するしんすけくん。近くに居た女性カメラマンは、そんなしんすけくんにメロメロです。なまえちゃんは、お言葉に甘えて、その小さな背に乗っかりました。なんとか、立ち上がるしんすけくん。

「おもい?」
「おもないわ」

よろけながらも、そう返しました。3才と4才は、体格差もそんなにありません。4才のしんすけくんにとっては、なまえちゃんを背負うのは結構大変なことでしょう。だけど、此処でも、しんすけくんは男気を発揮します。

「オレな、なまえちゃんのこと守れるくらい強い男になるからな」
「……うん。でもな。わたし、守られてばっかはイヤや。せやから、なまえも強い女になる!」
「そうか。でもな、勝つのはオレやで」
「むっ!なまえも負けん!!」

お家までは、残り100mくらい。ヨロヨロとしながらも、しっかりとした足取りで前進していく小さなヒーローに、私たちは目を離すことが出来ませんでした。





(なまえ!!しんどなったん?)
(とちゅうでな、しんどそうにしとったからな、おんぶして帰って来てん)
(しんちゃんがな、おんぶしてくれたからな、ゴホゴホならんかったんよ)
(しんすけ偉いな!ちゃんと、なまえちゃんのこと守ったんやな)
(しんちゃん、偉かったね)


After stoy→あれから14年




20210209







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