「月がきれいだねバトン」

○その昔、「I LOVE YOU」を夏目漱石が『月がキレイですね』と訳し、二葉亭四迷は
『わたし、死んでもいいわ』と訳したと言います。
○さて、あなたなら「I LOVE YOU」をなんと訳しますか?もちろん、「好き」や「愛してる」など
直接的な表現を使わずにお願いします。





I LOVE YOU →













目覚めた場所は、温かい腕の中だった。
船内はまだ静かで、誰も起き出す気配はない。
見張り番が微かに白み始めた空を確認した頃だろうか。
眠っているペンの腕の中で息を殺して、夜明けまでのほんの束の間の時間を待つ。

夜明けを待つこの時間はどうしようもなく穏やかで、
だからこそ、余計なことを考えてしまう。
この世界に、まるで俺と彼しかいないような錯覚に陥ってしまう。





ほんの少し腕を伸ばして、こちらを向いて眠るペンの頬に触れた。

微かな呼吸音に合わせて上下する肩が、彼が眠っていることを示している。
閉じられた瞼を縁取る睫毛は長く、薄い唇は触れると柔らかい。



綺麗だと、思った。

息を吸い、思考し、感情的になり、考え、笑い、泣き、食事し、排泄し、心臓が動き、血液が体をめぐり、生きている。
カッと胸の奥が熱くなるように、その事実だけが胸に焼きついた。
生きている彼は、なんて綺麗なんだろう。

本人は否定するだろうが、俺はこんなに綺麗な人なんて他に知らない。




でも、そんな綺麗な人の腕の中の俺は、きっと、どうしようもなく汚い。
同じ人間なのに、どうしてこんなに違うんだろう。
呼吸をしても、血液が体をめぐっても、
ペンギンを綺麗だと思うのと同時に、俺の醜さを思い知る。




苦しい。
なんでこんなに、彼は綺麗なんだろう。

苦しい。
なんでこんなに、俺は醜いんだろう。




苦しい。


なんで、彼を汚すと知っていて、俺は彼に触れるんだろう。
彼が醜い存在になってしまうのを恐れるのに、手を離すことが出来ない。


その頬に触れるだけで、泣きたいほど嬉しくなる。
その心臓が動いているだけで、呼吸をしているだけで、生きていることを歓喜する。

でも同時に、俺は恐れている。





苦しい。
なぜ、こんな綺麗な人でなくてはならなかったんだろう。


苦しい。




なぜ、彼は俺を、隣に置いてくれるんだろう。
抱きしめて眠って、口づけをくれて、体を繋げて、死んでしまいそうなほど嬉しい言葉をくれる。




苦しい。


血液中のヘモグロビンが酸素を解離してくれない。
全身が窒息して、細胞が死滅を初めてしまう。



溺れてしまう。

溺れてしまっている。





頬に触れていた手をそっと戻して、その平らな胸板にそっと額を寄せた。
近づくほどに苦しくなることは分かっているのに、それは俺にはどうにもできない。


このまま夜が明けなければいい。
世界が終ってしまえばいい。
今時が止まれば、俺は醜いままで、彼は綺麗なままだから。




とくん、とくん、
ゆっくりと感じる心臓の音が、すべてを奪い去っていく。
目を閉じれば、その弾みで頬を何かが滑り落ちた。




分かっている。夜は明けるのだ。
俺には、この綺麗な人の心臓を止める勇気なんてないのだから。
そして俺は、また、夜が明けるたびに溺れることを繰り返す。





嗚呼、


助けて。息が出来ないのです。





end




バトンの回答は最初の一文(I LOVE YOU →)と最後の一行を繋げたものです。
最後の一行を「貴方を愛してる」に変えても読めるように目指してみました。
なんというか撃沈しましたが(

たまには切なめのペンキャスも良いかなと考えたんですが、甘くて切ない話はハードルが高いですね…。
そしてペンさん寝てるだけでゴメンね!(








2010/06/27/sun
2013/12/09/mon 加筆修正




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