※現パロ
※七夕ネタ
「あ、降ってきた」
キャスケットの呟きに、読んでいた本から顔をあげた。
窓の外からは、ぱた、ぱた、と雨粒が音を立てるのが聞こえてくる。
どうやら降りだしたようだ。
立ち上がり、湿気が入らないように窓を閉めれば、反対側で同じように窓を閉め終わったキャスケットが、一つため息を吐いた。
今日は特に出かける用事も無かったはずだ。
雨では何か困るのだろうか。
疑問に思ったことをそのまま聞いてみれば、だって天の川が。と短い返事が返ってきた。
その言葉で思い出す。
今日は七月七日。七夕だ。
「この地域で雨が降っても、大気圏外には関係ないことは分かってるけどさ」
「ああ」
「でも、晴れてほしいじゃん」
そう言って、キャスケットが酷く優しい表情で笑う。
織姫と彦星は存在せず、あれは作り話だからどうでもいいだろう?といえないのは、七夕が文化として身に馴染んだものだからだろう。
サンタクロースを信じるのと同じようなものだが、どちらかといえば七夕の方が共感できる。
この不思議な感覚は幼いころからの教育の賜物とでも言うべきか。
いや、俺の考えはどうでもいいが、キャスケットが大切にしたいものは、俺も大切にしたい。
思想でも考え方でも、キャスが笑う出来事を知りたい。信じる出来事を知りたい。
それが、隣に居る特権なのか我儘なのかは分からないが。
端切れでてるてる坊主を作り出したキャスケットを見て、微笑ましい気持ちになる。
手伝おうかと声をかければ、目を瞬いたキャスケットがにこっと笑って一枚の紙を取り出して渡してきた。
長方形に切られた色紙だ。
それはこの日においてだけ、特別な意味を持つ短冊になる。
「願い事、書いて」
器用に二つのてるてる坊主を作り上げたキャスケットが、自らも同じような紙を取り出しながら言った。
そのまますらすらと願い事を書き始めるキャスケットに、少し疑問に思った事を聞いてみる。
「…笹が無いだろう」
「てるてる坊主があるじゃん」
自信満々にキャスケットは言うが、はたしてそれは代わりとして認められるのだろうか。
織姫と彦星が寛大な心を持っていることを願うしかない。
さて、何をかこうかと悩んでいたら、キャスケットは既に書き終えたようだ。
ひと足早くそれをてるてる坊主の端に括りつけて窓際につるしている。
その願い事をちらりと盗み見て、俺は苦笑した。
もっと願うことは他にあるだろうに、この恋人は無欲すぎる。
『天の川が晴れて織姫と彦星が会えますように』
そう書かれた短冊をてるてる坊主につるして、見ず知らずの恒星のために祈るキャスケットに、どうしようもない愛おしさを感じた。
てるてる坊主プラス晴れをお願いする内容だ。
どれだけ晴れてほしいんだと思うと、その真剣さに微笑ましくなる。
でも、それが真剣な願いであるからこそ、俺も応援したいと思う。
それがキャスケットの願いであるなら、俺の願いは初めから決まっているようなものだ。
立ち上がり、書き終えた短冊をあいている方のてるてる坊主につるせば、ぼんやりと窓の外を見ていたキャスケットが驚いたように目を見開いた。
それから、くすぐったそうに笑う。
「他に願うこと無かったの?」
「いや。考え得る限りもっとも正直な気持ちだ」
甘える様に指先を絡めたキャスケットの手を握り締め、ついでに腕の中に抱き込んで、キスを落とした。
嬉しそうなキャスケットに微笑んで、それから二人で口づけを交わす。
窓につるされたてるてる坊主の下で、短冊が二枚揺れていた。
『天の川が晴れて織姫と彦星が会えますように』
『キャスケットの願いが叶いますように』
目を閉じれば、弱くなっていった雨音が消えるところだった。
end
七夕記念でした。
天の川って晴れてると会えるのか雨が降ってると会えるのかどっちでしたっけ?
タイトルは音の響き重視で。
2010/07/09/fri
2013/12/1/sun 加筆修正