…重苦しい。


そんな感想と共に目を覚ましてみれば、なんのことはなく、ただソラ太が胸の上で暖をとっているだけだった。近頃滅法寒くなったので、人肌の恋しさに暖かな体温を求めて、ここに辿り着いたのだろうけれど。猫っていうのはなんでまあ、こうも人の胸の上に乗るのかね?もっと違う場所でもいいだろうに、例えば腕とか、まあ、腹とか。ソラ太を飼いはじめた頃に、夜中のそういう行為をされた時は、何の怪奇現象だよ、と恐れ慄いた…とまではいかないが、それなりに驚いてはいたはずだ。今は、もう慣れたことではあるけれど。あるけれど、胸の上は流石に呼吸するのが苦しい。

すやすやと眠っているらしい愛猫の背中を掌でそっとなぞる。人の心音より少し早い猫の鼓動は、どこかせわしなく、それでいてどこか心地よい。ああ、―暖かい。

そういえば、一緒にリビングで昼寝をしていたはずの小野寺は何処だ?視線だけで室内を探すと、小さな紙切れが目に留まる。買い物に行ってきます、とだけ記されるメモに、僅かに溜め息をつく。眠っているのを起こすのは気が引けるからそうしているに違いないのだろうけど、あいつは何でこうも杓子定規なのかね。人の気遣いとしてはそれで正解だろうけど、お前一応俺の恋人だろうが。恋人なら、一人部屋に残されるより、どんなに睡魔が襲ってきたって、一緒に出かける方がいいに決まってるだろ?…ああ、…でもまあ、それが小野寺でもあるし、そんな小野寺が俺は好きなんだよな、と一人苦笑い。相手の行為に一喜一憂して、だけどそれでも愛しいと感じる。それが恋というものなのだろう。だから、俺はいつも小野寺に恋をし続けているのだ。

何かを察したように、ソラ太が急に耳をピンと立てて、自分から離れていく。そして部屋の扉の前に行儀よく座り、もう一人の家主がそれを開けたとたんに、全身で飛びつく。うわっと叫ぶ声。もともと動物が苦手な小野寺は、ソラ太には大分慣れてはきたものの、それでもこんなふうに突然飛びつかれるとどうしていいか分からなくなるらしい。半泣きになりながら、見てないで助けてくださいよ!高野さん!と訴えてくる。動物は飼い主に似るっていうけれど、本当にその通りだよな。そういうお前の反応が面白いから、ついからかいたくなるんだよ。俺も、ソラ太も。

本格的に涙目になる小野寺からソラ太を引き離して、猫用のおもちゃを床に転がしてやれば、愛猫はすぐにそれに夢中になる。助けるんならもっと早く助けてください、とせっかく助けたのに可愛くないことを言いやがる小野寺の身体を、自分の身体と一緒に床にひきずりこんだ。え、ちょっと何してるんですか?という言葉を軽いキスで塞ぎながら、まだ眠いんだけど、寒くて寝れない、と告げると、多分小野寺もソラ太に胸にのしかかれた経験があるのだろう―俺はソラ太の代わりですか?と尋ねてくる。


「じゃあ、聞くけど。お前にとって、俺の代わりが誰かいるの?」


問えば、小野寺は顔を真っ赤にして、そうですよね、高野さんってそういう人ですよね!とぶつぶつぼやきながら自分の背中に手を廻してくる。

分かればいいんだよ、分かれば。

告げながら抱き締めた小野寺の身体は酷く暖かい。



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