静かに雪が降る夜だった。

残業と呼ぶには職業柄、早すぎる午後十時の仕事帰り。これから夕食を作る気にもなれず、かといって外食にも飽き飽きしているので、結局はコンビニ弁当が今夜の主食となる。自宅に近い駅から徒歩五分の場所。人数少ない店内に足を踏み込めば、気だるい雰囲気の中、妙にきらきらしている人間を発見する。

「あれ?木佐さん?」
「雪名。お前こんなところで何してんの?」

俺の姿を発見すると同時ににこやかに微笑みかけてくる人物の名は、雪名皇と言う。今年高校卒業する予定の雪名は、近所に住む仲の良い幼馴染だった。最も、自分が一足先に社会人になってからは、なんせ生活環境が違うもんだ、一緒に遊んだり同じ時を過ごすことはほとんど無くなった。それを寂しいとは思わなかった。寂しさという感情すら仕事の忙しさに食われて、むなしいとは感じたけれど。

塾の帰りです、と俺の質問に笑顔で答える雪名の顔は相変わらず綺麗だった。こいつの卒業時は、きっと周りの女が奴と離れる寂しさに号泣するんだろうな、とどうでもいいことを考えつつ、本日の食料をぽいぽいと籠に入れていく。

会計を済ませて、やる気のないコンビニ店員の声に押されるように外に出れば、一緒に帰りましょう、という雪名の声が耳に届いた。一応は一人暮らしをしているものの、悲しきかな、帰る方向が実は一緒。うまい言い訳を探していると、それを了解と受取ったのか雪名は俺の隣に立って、同じように静かに雪の中を歩き始めた。

肩が触れるか触れないかの距離で黙々と歩を進める雪名。昔は確かに自分の方が大きかったのに、いつの間にか追い越されてしまった身長。時を止めたように変わらない自分と、どんどん変わっていく彼。同じ時が流れているのに、こんなにも違う。

さくさくと音の無い雪の夜道を歩きながら、過去のことを思い出した。遠い昔に、雪名から好きだ告げられた時のこと。馬鹿をいうんじゃない、とはっきりとした拒絶を口にしたあの日。もう何年も前のこと。

「雪名さ、大学の合格発表っていつなの?」
「再来週です」
「もし合格したら、何か合格祝いをお前にやるから。何が良いか決めとけ」
「もし落ちたらどうなるんですか?」
「残念賞の授与を考える」
「なんですか、それ」

くつくつと喉の奥で笑う雪名の声。照らされた街灯の光が薄く積もった雪に反射して、僅かに眩しさを覚える。吐き出す白い息交じりに、雪名が告げた。

「木佐さんに、馬鹿なことを言ってもいい権利が欲しいです」
「………はい?」
「もう忘れてしまいましたか?」

沈黙が答え。唐突に激しさを増す胸の鼓動を必死に宥める一方で、相変わらず雪名は涼しい顔をしている。こうやって俺と偶然出会ったのも、一緒に帰るのも、訳の分からない約束事をすることですら、当たり前みたいに。俺と同じように。それは非常に気恥ずかしく、居た堪れないことではあるけれど、嬉しくないわけじゃない。心は多分、理性よりも正直だった。

「受かったらな」
「はい」
「自信はあんの?」
「99%くらいは」


自信があるんだかないんだか。そこは100%って言えよ、と笑いながら雪名に返した。


仕方ないから、残りの1%は俺も好きだという言葉で埋めてやる。心の中で呟いた。


10.幼馴染(王道10題)ゆききさ祭作品

11.11.30




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