※お題(トリチア)
停電だった。暗闇の中長年連れ添った幼なじみの安否を確認するために、名を呼べば返事の代わりにどたんばたんと音がした。危ないから動くな、と告げる前に吉野があ、あったと声を上げる。ぎゅるぎゅるという電動モーターの響き。聞こえた途端、ぱっと小さな灯りがつく。
「これ、非常用に買っておいて良かった」
吉野の手にはダイナモ式の懐中電灯。暖色の光は二人の姿を確認出来る範囲だけを仄かに照らす。
「一つだけじゃ仕事にならないよな。あと、十個くらいはないと」
普段は散々文句を言いつつ、やはり吉野にとって漫画を描けない状況というのは心苦しいものらしい。残念そうな表情はたとえ見えなくたって、よく分かる。
「今度買ってきてやるよ」
「あったとしても回すのが大変なんだけど」
「俺が回すからいいんだよ」
「それじゃあ、トリが疲れるだろ」
お前という光を失うよりは、よっぽどマシ。
※
好きなものを描く、君の姿は輝いて
55、自転車(字書きさんに100のお題)ぐるぐると回してみる。
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