「どうせ、こうなるって分かってたのよ!」

ぼろぼろと涙を零しながら、絵梨ちゃんが叫んだ。右手には鋭いフォーク。わざわざ奢ってあげた円の形をした大きなケーキは、既に彼女によって無残にも破壊されていた。その一つを掬いあげて、ゆっくりと口へと運ぶ。見た目はボロボロだけれど、味だけは確かだった。いつも通り、甘くて美味しい。

好きな人が、一番好きな人と結ばれるよう。それが彼女の選択だった。願いにも似た誓いだった。結果として彼女の目論見は全て成功したのだけれど。引き換えに最も大切にしていた想いを失くしてしまった。

分かっていたの、最初から。あの子が私を選ばないってことくらい。朝露のように煌く涙が白い頬を伝う。そんな彼女の姿を眺めながら、ぼんやりと昔のことを思い出した。

私が大好きだった幼馴染の少年に告白して、ものの見事に玉砕したあの日の。

彼に好きな人がいるのは分かっていた。知っていたけれど、言わずにはいられなかった。好きです、という言葉に返されたごめんという返事。失恋したら世間一般ではヤケ食いするのよね!とたまたま目に付いたこのケーキ店に足を踏み入れた時だった。絵梨ちゃんに初めて出会ったのは。

とりあえずワンホールのケーキを頼んだら、それは既に彼女が購入してしまっていた。あの時の状況はうっすらとしか覚えてはいないけれど、失恋直後のこと。冷静であった訳がない。どうしても大きなケーキが欲しいの!と店先で騒ぎ出した私に、彼女は溜息をつきながらこう言ったのだ。私のケーキをあげるから、落ち着きなさい。

絵梨ちゃんは大切な人のためなら、自分の大切なものを簡単に諦めてしまう人。諦める強さを持った人。だから諦めない強さを持った千秋ちゃんに惹かれたのね。千秋ちゃんの為に、彼自身を諦めることさえ躊躇わない位。大切だったのね。好きだったのね。


one whole queen 全てを一人で抱えこむ女王。でもね、絵梨ちゃん。絵梨ちゃんには、私がいるよ。いくらボロボロになったって、このケーキが変わらず美味しいように、貴方はいつだって気高くて美しい。いつだってあたたかくて、優しい。知っているから。私だけは。だから一人で泣かないでね。


諦める強さを持っていたとしても、彼女が傷つかないわけじゃない。


だから分け合いましょう。あの日絵梨ちゃんが私にそうしてくれたように。一緒に飲み込みましょう。喜びも、悲しみも。



だって、友達だもんね。



『問題編(元閑話休題4)』


少女はケーキが欲しかった。

けれどお店には一つしかケーキが無く、しかもそれは他の少女のものだった。


それでも少女はまだケーキが欲しかった。

持ち主の少女は溜め息をつきながら、そんなに欲しいのならあげます、ともう一人の少女に申し出た。

なのに少女は断った。


だって欲しかったのはケーキではなく、友達だと気付いたから。

少女たちは、一つのケーキを分けあった。


少女=一之瀬&小日向





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