携帯電話なるものを持つようになったのは、つまり自然な流れだった。皆が持っているから、という子供じみた言い訳も、事実本当にそうなってしまったから始末に終えない。そうして自分と言えば、両親から「何かあった時の為に」と渡されたのが最初だった。正直、本当に何かあったときほど呑気に連絡など入れられないだろうとは分かっていたけれど、それを口にしない最小限の良識はあったので、ただ一言ありがとうと伝えるだけだった。


幼馴染の彼からその件についての話を振られた時、原因は自分の母親が何の気なしに伝えてしまったことにあるだろうことはすぐに推察出来た。「トリ、携帯電話を買ってもらったんだって?いいな〜!見せて」と奪うような形で電話を取られた。人が参考書と真剣に向き合っているうちに、一通りの動作を楽しんだ奴は、ぱたりと興味を無くしたように「じゃあ、俺勉強の邪魔したら悪いから帰るわ」と言って部屋を出る。勿論、訝しんだ。だって彼は俺が勉学に励む傍ら、けたけたとした笑い声をあげて漫画を読むような人だったから。


数日後、嬉々とした表情で家にやってきた千秋の掌には、真新しい携帯電話が握り締められていて、なるほどこういうことかと思い至った。トリが持っていることが決め手になったと彼は言うけれど、それが真実かどうかはおおよそ疑わしい。


自然の流れの如くお互いの番号を交換している矢先、千秋が言った。


「これでいつでもトリと話が出来るな」


そんな単純な一言で少し嬉しくなったも束の間、冷静になってはたと気づいた。


利便すぎる画期的な機器。


おかげさまでいつでも彼と話せる代わりに、いつでも彼に会えなくなった


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