とあるテレビ番組で、カレー特集なるものがやっていたので暇つぶしに見てみた。カレーと言えば普通の食卓にもよく並ぶ、共通の定番メニューだ。調理手順というのは、スーパーでよく売っている固形スープの元を入れさえすれば良いと思ったのだが、本格的なものはとそうではないらしい。数十種類のスパイスを組み合わせ、何時間もの間煮込まれた料理は、画面越しでも香りが漂ってきてしまいそうなほど美味しそうだった。


問題はここからだ。何とカレーには、隠し味としてコーヒーやらジャムやらを入れたりするということが判明し、結構衝撃的だった。何もしなくてもその味で充分美味しいだろうに、混ぜる必要もないものを何故混ぜる。そうやって疑問に思っているうちに、どんどん疑わしくなっていった。………トリも、料理の中にあんな変な物を入れているのだろうか?


「お前、何か隠し事しているだろ!」
「は?」


ネクタイをしゅるりと外しながら、いかにも面倒だと言わんばかりに羽鳥が顔をしかめる。床の上に落とされた袋は、彼がスーパーから購入してきた本日の夕食で。つまり俺のリクエスト通りのカレーの材料だった。


「浮気ならしていないが」
「そういう意味じゃねーよ」


意図しない切り返しをされて、若干焦る。思いっきり動揺していると、主導権を取り戻した羽鳥から、いいからお前は黙って座っていろ、と告げられた。不服はあったが、彼の言葉通り大人しく椅子に座って待つことにする。別にしつこく追求して真実を引きずり出す必要はないのだ。こうやって静かに監視しているだけで、何か変な物をいれようものなら直ぐに気づいてしまう訳だし。


油を敷いたフライパンで、玉ねぎを炒める。飴色になったそれらは歯ごたえがありそうで美味しそうだった。次に、火の通りにくいじゃがいもとにんじんを。人参は自分用にやや小さめサイズに切られている。そして最後には、ごろごろとした肉を。フライパンの中をごろごろと転がる肉は、ジュージューと音を立てて随分と食欲がそそられる。


大きめの鍋に一旦火の通した材料を詰め込んで、水を流しこむ。うん、ここまではいたって普通だ。何もおかしなものは入っていない。カレールーを入れたところで、ふと息をつき油断したところだった。羽鳥が、何かカレーの材料にしては見覚えのないものを入れていたのは。


「……トリ、今何入れたの?」
「何って、これ」
「………チョコレート?」


うわあ。やっぱり何か入っていたんだ、とショックを受けると同時に、でもそれが普通のチョコレートだと知って逆に驚いた。訝しげな表情を浮かべる俺に、そんなに心配なら味見でもしてみろ、と彼が小さな皿にとろりとしたカレーを少々盛り付けた。ふーふー、と息を吹きかけて冷めたところでぺろりと舐める。…あ、いつも通りのトリの味だ。


「なあ、トリ」
「何だ」
「隠し味って、バレた後も隠し味っていうのかな?」
「知らん。…だが、食べた瞬間にそれが入っているのだと分からなければ、そうなのかもな」


ナチュラルにチョコレートの欠片を二つほど投入したあたり、多分これが最初ではないのだろう。作り続けた二十八年間に一体どれほどの甘さが含まれていたのか。お前、本当に俺に隠し事をするのが好きだよなあ、とちょっと笑ってしまった。まあ、数十年かけてようやく告白してきたことを鑑みれば、少しは前進しているのだろうけど。


隠し事はなしとは言わない。でも、それで羽鳥が辛い想いをするくらいなら、いくらでも吐き出して欲しいと思う。せめて俺にだけは。


それにこいつが隠すものと言えば、結局全部が全部俺の為だったりするので。その事実を知っているが故に、俺はこいつと一生離れられないわー、とか思っちゃったりするのだ。


勿論、それは秘密のままにしておくけどね。





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