終焉譚1

例えばそう、三つの箱があったとする。その中には当たりの箱が一つある。仮にA、B、Cと分かりやすく名前をつけ、そして貴方にその当たりを求めて箱を選んでもらおう。貴方が選ぶのはどれでも良い。結果選び出されたのはAという箱。正解を知っている私は、貴方が選んだ箱を省いて、ヒントを出すためにCの箱を手に取った。中身は外れ。

ここで最後の選択肢を与える。あなたはAかBか。もう一度それを選択出来る。

大抵の人はその選択は変えようとはしないはず。もしここでBを選ぶ理由があるとすればそれは単なる気まぐれで、深い意味なんてないのだから。

でも、実はね?私がCという箱を開けたことで、貴方が選んだAではないBの箱のその確率は変わるの。何もヒントを与えないうちでのAとBとCの中で当たりが出る確率はそれぞれ三分の一。けれど私がCという箱を開けたことで、Aが当たる確率はそのまま三分の一。それに対してBという箱が正解である確率は三分の二ということになる。三分の一でも二分の一でもなく。

つまり貴方はAではなくBの箱に選び直せば。おめでとう、貴方が正解する確率はその二倍となる。面倒臭い理論計算は省略するけれど、もし良かったら調べてみてね?意外と面白いから。

積極的に選択肢を変えれば、正解である可能性は高くなる。

確率は数値の問題で、貴方が納得出来ないからといってそれがおかしいわけじゃない。知らぬが事実だとしても、知ってしまったらその世界は変わる。たとえ認めたくなくても。

つまり貴方は、それに気づいていないだけ。

貴方が無意識で選んだ箱の可能性が、実は”高確率”だってことも。


例題はモンティ・ホール問題より。

◇2
囚人の前に、魔法使いが現れました。

魔法使いの少女は、囚人に向かいこう言いました。貴方の願いを何でも一つだけ叶えてあげましょう、と。来る日も来る日も薄暗い牢屋に閉じ込められていた囚人は、迷うことなく答えました。

「私は、自由になりたい」

魔法使いがその杖を振れば、人間だったその体がいつの間にか鳥の姿に変わりました。魔法使いは、その鳥を窓の外へと逃がしました。晴れ渡る青空の下、囚人は自由になれたと喜びました。

そうして数え切れない時が過ぎ、ある日囚人だった鳥はこう思いました。

「私は一体いつまでこうして空を飛ばなければならないのでしょうか?」

飛ぶことに疲れ果てた鳥の耳に、あの魔法使いの声が聞こえました。

「本当の自由とは、終わりがないことです」

◇3

それで貴方は、その後一体どうしたのですか?

「天気が良かったので、久し振りに散歩に出かけました。陽射しが随分強かったのでコートを羽織らずに外出したものですから。意外と寒くて、くしゃみを何度か繰り返しました」

散歩の途中で、貴方は誰かと会いましたか?

「よくご存知ですね。はい、十年ぶりに昔の友人と偶然再会しました背丈や顔つきは少しだけ成長していたように見えましたが、外見は変わっていても中身はほぼあの頃のままで」

気づいた点はそれだけでしたか?

「そうですね。以前よりは表情が落ち着いていて、終始穏やかでした」

はい、結構です。

「…あの、失礼ですが。先程からのこの質問に、一体どのような意味が?」

その前に、最後の質問を先に良いでしょうか?心配はいりません。これで、全て終わりですので。

……貴方が出会ったという友人の名前は何ですか?


「………え?」


ようやく分かりましたか?貴方の友人である”小野寺律”とは、この世界には存在しません。

◇4

幸せにしてあげたいと思いました。幸せになって欲しいと願いました。

私にはそうさせる力がありました。

幸せに出来ると思いました。それがあたかも素晴らしいものであると信じました。

けれど私は、いつしか虚しくなりました。

幸せになりたいと思いました。幸福を胸に受けとめて、笑いたいと考えました。

私の幸せとは何だったのか。今はもう思い出せませんでした。


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