R指定ご注意

二人で温泉に浸かるのは流石に嫌なので、高野さんには先に行ってもらう。今更何恥かしがってんの?お前の体なんて全部見…と口にした辺りで枕を彼に投げつけぶつけたのはつい先程のことだ。しばらくして随分帰りが遅いな、などと心配して迎えに行けば、高野さんは古びたマッサージチェアの上で気持ちよさそうに体を振動させながら眠っていた。何考えてんのこの人。心配して損した。と呟いて嘆息する。


温泉に入るのなんて何年ぶりだろう。手足をゆっくりと伸ばせる空間が何気に嬉しい。日頃の疲れがゆっくりと解けていくようだった。透明な雫が肌をなめらかに滑っていく。しばしのリラックスタイムを過ごして、温泉から出てみればどうやらお目覚めの高野さんの姿。牛乳瓶をわざわざご丁寧に手渡して、飲めと強制してくる。どうせ、一緒にお風呂上がりの牛乳を飲みたかっただけだろう、この人は。それを簡単に叶えてやるあたり、俺も甘いのだけどね。


どうやら意識を飛ばすのは今日は先程が最後だったようだ。ほっとして、布団の中で目を瞑る。高野さんの息遣いが隣から聞こえ、妙に緊張する。何だろう、今日は何もしないのかな?………いや、何かする方がおかしいだろう、何考えてんだ俺。しっかりしろ!と慌てて言い聞かせる。流石に知り合いがいる宿で破廉恥な行為は自重しているのかもしれない。…良かったじゃないか。これで安心して眠れる。


寝ようと思い目を閉じると、唐突にその意識が途切れた。………ああ、またあの夢か。


日溜まりの溢れる図書室。瞼を持ち上げて、遠目でその全貌を確認する。俺の姿はすぐに見つけた。けれど、先輩の姿は見当たらない。またこの間のようにカーテンの影に隠れているのか。しつこく室内を探してみるも、その姿を発見出来ない。変だな、まだここに来ていないのかな。いつもだったら、俺がここに現れた瞬間に二人が存在していることが分かるのに。


昔の自分は、そんな俺の焦りなど知りもせずに窓の外を眺めていた。一心に外の世界を追いかける視線に気づいて、何が見えているのだろうと一緒になって覗き込む。あれは、正門に向かう嵯峨先輩の後ろ姿。気づいた瞬間、心臓がざわざわと蠢いた。あれ?先輩の隣で一緒に笑っている女子生徒は、誰?何で昔の俺は、ただそれを目を細めて眺めているだけなの?泣きそうな顔をしているくせに、どうして笑っているの?


聞こえないはずの俺の声に応えるように、昔の自分は透き通るような青空に手を伸ばした。


空は、どうして青いんでしょう。


海は、どうして青いんでしょう。


同じ色なら、いっそのこと。


気づけば目の前には俺に迫っている高野さんが見えた。意識を失っているうちに着ていた衣服は全て脱がされてしまったらしい。一糸纏わぬ肌に、高野さんの掌が滑る。ま、待ってください、と突然の状況に訳も分からず慌てて止めようとしても、高野さんはここまで来て待てるか、と荒っぽい息を吐く。


体は既に高揚し、兎に角熱い。熱くて苦しくて、酸素を掻き込もうと口を開けばそこに高野さんの唇が落ちる。奥に逃げた舌を絡められ、それをきつく吸い上げられた。その間も肌にはやんわりとした愛撫が続けられ、次第に息があがっていく。


「や、…たかのさ…やめ」
「無理」
「…っ…あっ!」


大きく膝割られて、勃ちあがった中心が高野さんの口に包まれる。大きく顔を上下に動かして的確に刺激を与え、舌で先端をくるくると回転させる行為に耐え切れず液が滲んだ。潤滑剤としてその下にある膨らみごとやんわりと唇で挟まれて、抵抗しようとしたが、膝裏をがっちり掴まれている為叶わない。

「あ…っ…うぁっ!」
「気持ちいい?」
「…やっ!しゃべらないでくだ…あっ!」


もう我慢の限界を迎えようとする直前、高野さんの動きが止まる。ここまできてもう自分でも高野さんを拒めないくらいに気持ちよくなっていて、寸断された行為に涙目になって高野さんを睨む。


「自分でやってみて」
「…は?」


余りの言い分に絶句して、思わず高野さんを見つめる。悪気なくにやりと笑うあたり、どうやら本気のようだ。何、出来ないの?とやや挑発気味に言われて、そんなわけないでしょう!と憤慨して言い返す。それが罠だと直後気づいて、全身の血液が顔に集中する。え、何、俺、今ふざけたことを。


高野さんは高野さんで、そんな俺の状態を面白そうに笑って。胸に手を這わせたかと思えば、それを押し上げてやや丸みを帯びた胸を作りその先端に舌を這わした。鋭敏な部分をわざと外して、乳輪にそって舐めて、尖りを甘く噛んで吸い付く。途端堪えられないくらいの快感が電流のように全身に流れ、思わず甲高い声をあげる。けれど肝心な部分には一切触れてもらえず、それが酷くもどかしい。


「たか…の…さ」
「何?」
「も、やだっ…」
「自分でやらなきゃ、駄目」


悔しくて感じないように堪えようとしても到底出来ず、高野さんはそんな俺にただ笑うばかりだ。観念して、おずおずと自分の掌を破裂しそうになっている部分に伸ばす。堅く反り上がったそれを、躊躇いがちに擦り上げていて。最初のうちは抵抗があったものの、動かしてしまえばその気持ちよさに抗えず、次第に速度を増していった。先端から白い液が絶えず溢れて、その滑りを使ってさらに高みに追い上げる。


「あ…っ…んっ、やぁっ…」
「お前、たまんねー顔するよな」


喉の奥で高野さんが笑ったと思えば、自分の手に大きな彼の掌が重なる。同時に揺らされた振動が全身を恍惚に誘った。


「や、やめ…」
「もう限界なんだろ?ほら、いけよ」
「……っ、あっ、ああっ!」


耳元で高野さんの吐息が吹きつけられた瞬間、あっさりと達してしまった。白濁が自分の腹に散らばり、それが生々しく気恥ずかしい。絶頂の余韻にふるふると震えながら浸っていると、高野さんが自分の体をくるりと反転させる。


四つん這いの状態にされて混乱しかけていると、あらぬところに高野さんの舌が触れた。


「ちょ…高野さん…どこ舐め…あ、や」
「慣らした方がきつくないだろ?」
「いや…だめっ、そんなの汚いっ」
「お前のだろ?綺麗だよ」


言葉で静止しても聞き入れてもらえず、ぎゅう、と布団のシーツを握りしめて堪える。途中余りの羞恥に涙がぼろぼろと溢れ、それでも喉の奥からは嬌声が押し出される。舌が内部に入り込み例えようのない違和感を覚えるのに、どうしようもなく感じてしまう自分の体が憎い。


つぷりと指を入れられて、でも抵抗がほとんど無いと分かると高野さんはその数を徐々に増やした。内壁を緩く擦られて、それが馬鹿みたいに気持ち良い。濡れた唾液が薄い粘膜の中くちくちと音を立て、その卑猥な響きも今はもうどうでも良かった。


「も、…のさん、…ねがい」


掠れた声でねだれば、ひたりと散々に嬲られた場所に熱いものが当てられる。高野さんの指が唇を噛み締めないようにと、口の中に入れられる。力を抜け、と諭された瞬間に、高のさんのが一気に押し込まれる。痛いのに、苦しいのに。だけどどうしようもなく気持ちが良い。


ずくずくと腰に突き上げられて、滴る汗がぽたりぽたりとシーツに落ちる。異物に馴染んだ内壁はひくひくと痙攣を起こし、高野さんのものを受け入れたままきゅうと締め付け絡む。ひっきりなしに溢れる声を抑えようとして、でも出来なくて。直後、高野さんが俺の体から離れた。


受け入れた部分に物足りなさを感じていると、仰向けに体を動かされる。高野さんの顔が見えたと思えば、そのまま再度欲望を突き入れられた。


「うあっ…!あっ…!や…んっ!」
「小野寺」
「ふぁ…、あ、ああっ!」


快感の中見上げた高野さんの顔は酷く苦しそうな表情をしていて、人を好き勝手しているのになんでそんなに切なそうなんですかとつい笑いそうになってしまった。その表情が昔の彼のそれに重なって、どうしようもなく胸が締め付けられた。こんな幸福の最中、貴方は何故そんなにも悲しそうなのですか、と。


ああ、そうだ。昔もそうだった。先輩は何度も何度も俺を抱いて、それでも彼の悲しさから俺は解放してあげることが出来なかった。傍に居ても、語りかけても。何一つ先輩を幸せになんて出来なかった。あの頃だって本当は怯えていたのだ。もし、先輩が別れようなんて言いだしたらどうしよう、なんて。もしそれであの人が幸せになれるのなら、喜んでその手を離そうと考えていた。心の中でそれは嫌だと暴れ狂っていたのに。


抱き合った瞬間はお互いのことだけを考えていて、一緒にその体温を感じていて。その時が永遠に続けばいいのにと願うのだ。そしたら、そうしたら。知り合いというだけの女性が高野さんの傍にいても、愚かな嫉妬を繰り返さずに済んだのに。彼を信じることが出来たのに。


「あ…んーっ!」


激しい突き上げの後全身が一瞬強張り、そのまま二人一緒に果てる。高野さんのものを体の奥底で感じながら、ようやく昔の自分が何を言おうとしていたのかを理解した。幼い俺が青空に手を伸ばしながら告げる言葉。


空も海も同じ青なら、


どうせ手を伸ばしても届かないと知っていたなら、


“一つに溶けてしまえば良かったのにね”



早朝に高野さんに叩き起され、二人で海岸沿いに散歩に出かけることにした。途中昨日の女性と朝の挨拶を交わしたが、彼女の隣には見慣れない男性が一人居た。聞けば、高野さんが前の会社にいた頃に担当していた漫画家で、その女性は彼の妻なのだと言う。知った瞬間思わず頭を抱えてしまった。くそう、それを知っていたのなら昨晩あんなに嫉妬心に掻き立てられ、乱れることは無かっただろうに。終わってしまったことをぐだぐだ言っても仕方ないと理解しつつ、でも居た堪れないくらいに恥ずかしい。


夏の日の太陽は高く、昼に程遠い時間でもその光は強かった。砂浜をゆっくりと歩きながら、空を仰ぎ見、海を眺める。昨晩のことを思い出し、幻の中の台詞を自分の言葉に重ねる。空も海も同じ青ならば、いっそ一つに溶けてしまえばいいのに。そうしたら二つ二度と離れることもないし、それが永遠になるはずだから。


「高野さん?」
「何?」
「俺が高野さんの一部だったらどうしますか?」


唐突な質問に高野さんは一瞬目を見開き、そして笑って見せる。


「そしたらお前と一生離れなくてすむだろうな」
「……まあ、そうなりますよね」
「でも小野寺が俺の一部になったら、こうやって手を繋げなくなるんだろ?それは嫌だな」


告げた途端、高野さんは嬉しそうに俺の掌を取る。ぎゅう、と握り締めたその手の温かさに、何故だか酷く泣きたくなった。


本当は怖かっただけなのだ。俺はもうとっくに高野さんを好きになっていて、でも二人一緒になってまた離れることになってしまったらどうしようと。悪い想像ばかりが先行し、だからこの人の想いを受け入れることが怖くて。また失うのが嫌で、だからその手を取れずにいた。でも。


もう一度信じてみようか。彼を心から愛してみようか。それが永遠だと確かめてみようか。この人をもう一度だけ、選んでも良いだろうか?涙を零しそうになりながらも、その手を強く握り返す。


傍らには青い空と海。気づけば、夢の中の自分と同じことを俺は高野さんに尋ねていた。


空は、どうして青いのでしょう。


海は、どうして青いのでしょう。


「確か、太陽の光には人間には見えないものも含めた色が何十種類もあって。空にも海にも、その中の青色だけが残るから、そう見える」
「正解です。博識ですね」
「言ってろ」


空にも海にも透明かつ確かな境界があって、それは永遠に一つに成りえはしない。それでも空と海はひと時も離れることが無いのだ。何故ならそれは空も海も一つの世界の一部だから。二つ合わせて一つだから。分けたのは人間の勝手な解釈であって、もともとは一つの円。


自分達は二人の人間だから肌を交じり合わせて一つになれるし、だからこそ互いの愛をそうやって確かめることが出来るのだ。そこに怯えることがどうしてあろうか。離れることが怖いのなら、離れないように努力すればいいだけの話なのだ。不確定な未来よりも、今高野さんを失う方がよっぽど怖い。ああ何故、今の今までその考えに至らなかったのだろう。


視界の奥に昔の二人がこちらを見て微笑んでいることに気づく。微かに動いた唇は、それでいいんだよ、と言っているように見えた。だから、もう二度とあの夢を見ることはないのだと瞬間に理解した。あれは臆病な自分を奮い立たせるため見た夢で、だから今新たな一歩を踏み出そうとしている自分にはもう必要ではないから。


震える唇をゆっくりと開いて、高野さんを見据える。


ねえ、高野さん。ずっと言えなかったけれど、俺は高野さんのことが。


繋いだ掌に宿るは仄かな灯火。それは決して二つに別れることなどない。美しい空の青も深く沈む海の青も。二つで一対。二人で一つ。


もともとは、一つの光。





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